中国人民元のSDR構成通貨入りは仕掛けられた罠か?

中国のSDR構成通貨入りに関して経済的、政治的に様々な論考が取り上げられていたので、少し考えてみた。

1)米国・欧州の陰謀説
中国はこの決定に中国の国際的な地位向上、改革成果が評価されたと勝利宣言をしているが、
「マンさんの経済アラカルト」ブログは、これは米国・西洋諸国の罠ではないかと主張している。

中国に仕掛けられた罠。「人民元のSDR構成通貨採用」で笑うのは米国
MoneyVoicw2015年12月3日
http://www.mag2.com/p/money/6562
(1)変動相場制移行と資本の自由化
SDRに取り入れられる人民元は来年10月までに今のドルペッグ(固定相場制)から変動相場制に切り替えなければならない。
IMFから為替の自由化とともに、資本の自由化も求められる。
そうなると、当座は資本の流入より流出が大きくなると見られる。人民元の先安観が強まれば余計拍車がかかる。これは意図しない金融引き締め効果を持つ。
人民元の下落は、民間企業や個人の外貨建て債務を水膨れさせ、返済負担がより大きくなる。

(2)BIS自己資本規制
改革がある程度進めば、世界の中央銀行が人民元を準備通貨として持ち始めるので、人民元安にも歯止めがかかり、人民元需要が高まれば、また上昇する可能性もある。
安定したところで、巨大な国有銀行がBIS規制の対象になり、自己資本規制で縛られるようになる。
西側のルールで中国の金融市場を縛る過程で、中国市場で混乱が生じることをもくろんでいるのではないか?
とブログの著者は主張している。

このBIS規制に関して中国は「後進国であることを理由に2025年まで紀元を引き延ばすよう要求し、IMF側はこれを受け入れたとされるので、BIS規制がすぐに国有銀行を直撃することは考えにくい。
しかし、国有銀行の地方政府、ノンバンクへの貸し出し不良債権は膨大であり、資産減少局面では手が付けられない。それらを不良債権処理すれば日本のバブル崩壊と同じ道をたどる可能性は高い。

『西側のルールに載せて潰す』ことを狙ってSDR組入れを画策したとは言い切れないが、中国経済を資本主義社会のルールに載せれば結果としてそうなる可能性は高いと思われる


2)中国・米国裏取引説
CIA系シンクタンク『ストラトフォー』の有料レポート、またトロント大学のシンクタンク『グローバルリサーチ』や、ロシアの政府系シンクタンク『ストラテジックリサーチ研究所』など多くの研究機関が配信する記事から、「AIIB」や「一帯一路」構想は実は米国が中国にそそのかし、その代償として中国の南シナ海進出を黙認するという取引があった、という説を唱えるブログもあった。
第二次大戦前のように日本だけがバカを見る方向に走っている、という「あの手」の警鐘だ。

MoneyVoice 2015年11月19日
未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ』から
米・中に踊らされる日本。
複数のシンクタンクが見抜いたAIIBの真実=高島康司
http://www.mag2.com/p/money/6353/5
これはピルズベリーの『2049China』が既に共和党、民主党、軍部上層部で広く共有されている米国ではもはやあり得ない。
もちろん米国上層部にまだ多くの親中派がいるが、米国は今年中国に対する戦略を180℃転換した。


3)中国経済の深刻な実態の指摘
中国の公式発表は経済成長率だけが怪しいのではない、むしろ外貨準備高と失業率の方が危険、と書いている記事があったが、興味深い。

中国が歩む「平凡な新興国」への道
外貨準備高と失業率にも「??」
日経ビジネス2015年11月2日(月)倉都 康行
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/230160/102700006/?P=5&mds
倉都は外貨準備高が3.5兆もあるのはおかしい、と指摘している。
米国債の保有高が日本と同程度なのに、なぜ日本の外貨準備高が1.2兆ドルで中国がその約3倍あるのか?ドル以外の要素を合わせてもドルの2倍あるわけがない、という指摘はもっともだ。

≪中国の外貨準備には国有銀行の対外借り入れが含まれている、との見方もある。仮にそうであれば、3.5兆ドルの外貨準備がGDPと同様に誇大広告に近いことも否定できなくなる。欧州系金融機関の中には、人民元対策として利用可能な外貨準備高はせいぜい1兆ドル程度、と推測しているところもある。(記事より引用)≫
1兆ドルでも膨大な金額だが、8月のような暴落への介入でもあと5回しかできないという数字でもある。「中国は全然問題ない」と言えるわけではないことになってきたわけだ。

SDR入りすれば人民元に対する為替操作は原則できなくなるが、SDR準備高は5年間は変わらないので、その間中国好き勝手をやらかすつもりなのかもしれない、という観測もある
中国に求められているのは不良債権と過剰の清算と内部主導型経済への転換であるが、それだけ痛み(倒産・失業)を伴う構造変化を政府が進めなければ、日本のように全体がじりじりと弱っていく。 それを避けるために人民元を切り下げ誘導すれば、またぞろ輸出で景気が潤う旨みを味わい、構造変化が先送りになる。
いわゆる日本病と同じようなものだが、中国に関しては『中進国のジレンマ』というのが正しい。いずれにしても中国の低成長化が世界経済に与える影響は大きい。

倉都の記事でもう一点重要な点は、このところ4.2~4.3%と決まった数字しか出てこない失業率も実は全然違うという説である。
上海大学のShuaizhang Feng教授ら3人のエコノミストが全米経済研究所(NBER)から公開した報告書の中で次のように報告している。1988~1995年の推定平均失業率は3.9%だったが、1995年以降は農村部からの移民増も失業率上昇の一因となり、年間1%程度ずつ失業率が上昇することになった、と推計されている。
彼らによると2002~2009年の平均失業率は10.9%と高止まりしていたと見られるが、政府の発表は平均4.2%だったという。
リーマンショックは4兆ドルのインフラ整備に対する財政出動をしたので失業率は一時敵に改善したかもしれないがそれは季節労働者のようなものなので、この1,2年でそれも大きく減速しており、上のエコノミストの推計が正しければ、失業率が10%台に戻っている公算が高い

その上、10億ドル以上の資産を持つ富裕層は米国の539人を抜いて596人となっており(中国のHurun Rich Listにょる)、平均所得の倍の所得を得ている中間層の人口も米国の9,200万人を抜いて1億900万人に達している(クレディ・スイスによる)といい、格差が広がっている。
中国はすでに失業率や格差では限界にきている。
社会が崩壊すると言われる線を既に超えている。


ジニ係数は所得か須佐を数値的に表す係数だが、一般的に0.4は社会騒乱が起きる警戒ラインと認識されている。
中国国家統計局による2012年の中国のジニ係数は0.474となっている。すでに警戒ラインを超えている。
世界銀行の2008年の推計では0.47なので近い数字だ。
四川省にある西南財経大学研究チームが行った推計によると、2010年のジニ係数は0.61だったという。
これは四川省の地域的な数字だとみなせるが、恐ろしい数字だ。
ちなみに「社会実情データ図録』によると日本の2009年のジニ係数は0.336、か須佐社会といわれる米国で0.389だ。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/4652.html
中国のジニ係数に関しては以下の資料による
中国の所得格差の拡大とジニ係数 発行日 2013年2月8日 主席研究員 柯 隆
http://www.fujitsu.com/jp/group/fri/report/china-research/topics/2013/no-164.html




4)人民元がドルに代わる基軸通貨になるなどという議論はナンセンス
なお、日本のデフレを立て直せなかったクルーグマンは中国のSDR入りに関して、「新興国の通貨が初めてSDR通貨になるという政治的に象徴的な意味合い以外に何もない。肝心なのは経済力と信用力だ」として、ドルに代わる基軸通貨などと論ずることをナンセンスだと一蹴している。
Small News On The Yuan
DECEMBER 1, 2015 8:41 AM
Paul Krugman - New York Times Blog
http://krugman.blogs.nytimes.com/2015/12/01/small-news-on-the-yuan/?_r=0


5)米国vs多極主義陣営の戦い とみる見方
もう少し俯瞰してみている見方もある。

中国は沈むのか?昇るのか?
米国vs多極主義陣営の戦いが示す未来=北野幸伯
MoneyVoice 2015年12月8日
http://www.mag2.com/p/money/6634
この北野という人の話は面白い。ロシアや米国に関しては鋭い見方をする。
ここでは中国vs米国でなく、米国vs多極主義陣営となっていて、後者にはEU諸国も中国もロシアも入るというのだから穏やかでない。
もちろん、EUができて通貨を統合したのは米国ドルの専横に対抗しようとしたものであることは確かだ。そしてシリアを攻撃しようとした米国をロシアとフランスが抑え込んだのも事実だ。ロシアは上海開発機構やAIIBに入って中国の仲間になったようにも見える。だが、EUとロシア、EUと中国、中国とロシアは局面に応じて自分の利益になる時だけ組むだけなので、常に米国と対立するように共闘しているわけではない。

北野の記事で私の認識が間違っていたと気がついたことが一点ある。
世界銀行を牛耳っているのは米国だが、IMFは欧州が牛耳ってきたという点。私はIMFも米国が握っていると思っていた。
確かに中国はラガルドに手を回してラガルドだから承認したと言える。ピルズベリーの2049ChinaにでてくるIMFが80年代から中国に成長戦略を示してリードしてきたというくだりは、米国でなく欧州の「差し金」だったということになる。長年にわたって欧州が中国を大きく育ててきた真犯人だった。
私は米国だけが中国を大きく育て上げた犯人だと考えていたが、大きな間違えだった。調べてみるとIMFの本部はワシントンにあるものの、11代の専務理事はいずれもヨーロッパ人だ。米国人は代行で2回、短期間在籍しただけだ。
なぜ民主主義でもない独裁主義の国を米国も欧州もそろって支援してきたのか日本人としては理解できない。が、欧州から見ると中国がチベットやウィグルで何をやろうと、東・南シナ海でなにをやろうと自分らの安全保障には響かないので、純粋に金儲けさえできればいいのだ。これは未だに変わっていない。

さて、北野によると
(1)中国は『沈みゆくタイタニック』である
・大手日本企業は撤退を始めている
 NTTコム、カルビー、パナソニック、エスビー、サントリー、ホンダ
・米国の金融機関が中国から逃げ始めている
 シティグループは広発銀行株を売却、◾
 ゴールドマンサックスは、ブリックスファンド」を閉鎖
◾シティ、バンク・オブ・アメリカ、ゴールドマンなどは12年から中国株を売りまくり
ただし、北野は人民元がSDRの構成通貨になったことが『中国の浮上』だとしているが、象徴的意味合い以外ではそんなに単純ではない。

(2)欧州は米国の対抗軸を目指した
・EUの東への拡大
・ドルの規模に対抗するために通貨を統合

このあとフランス・シラクがフセインから原油をユーロで買おうとしてブッシュの怒りをかった。フランス、ロシア、中国が反対したが、米国は「ドル体制の維持」という国益のためにイランを攻撃した。
北野によるとこのときのフランス、ロシア、中国がアメリカ一極主義に対抗する多極主義陣営を作ったというが、フランスは伝統的に米国人をバカにしているし、ドゴール時代だって十分反米的だったので、これで何かができたとはいえいない。

米国はロシアの切り崩しにかかった。その反動でロシアと中国はくっついた
・ユコス事件(03年)、グルジア・バラ各面(03年)、
 ウクライナ・オレンジ革命(04年)、キルギス・チューリップ革命(05年)
これは昨今のウクライナ情勢まで続いている。
これらの米国の策動にプーチンも相当頭にきただろう。05年には中国の上海開発機構に入る。
だがこれはロシアの一時的なご都合である。
ロシアがその中身をよく知っている中国人を信用するわけがない。絶対にありえない。利用できるものを利用するだけだ。

北野によると「多極主義陣営」の大戦略は「ドル体制崩壊」にある、という。
米国のご都合主義に振り回されてきたのは欧州も日本も変わらない。
日本をバブルの絶頂から長期低迷のどん底に引き落としたのは他でもない、急激な金利低下を強要した米国だ。(もっとも米国も日本経済がどうなるか読み切れていたわけではなく、ただ恐れていただけだが)
その横暴をなんとかしたいとして統一通貨ユーロを作ったEUが、さらにドル体制の崩壊を狙って新興国の通貨に過ぎない資本の自由度もない取引の自由度もない中国人民元をダシに使ってきたのかどうか?

そもそもドルが基軸通貨でなくなって米国が没落すると、世界は欧州にとってどう有利になるのだろうか?
ロシアは欧州にとって脅威ではないのか?依然として脅威だ。
米国の軍事力がなければ米国抜きのNATO軍ではロシアに太刀打ちできない。
欧州は中国と手を結ぶからロシアは脅威でなくなるのか?
中国はロシアを止められたことは歴史上一度もないのに?
これは軍事戦略としては不十分な話だろう。
核ミサイルの数を減らしてるとはいえ、ロシアは核武装した原潜を太平洋にも大西洋にも実戦配備しているのであり、モスクワを狙える大西洋に艦船さえ持ってこれない中国を恐れる理由は全くない。(今後中国がGPS衛星を破壊する攻撃力をつけたら話は違ってくる。ロシアも同じ分野は研究しているだろうが)

ドルの一極体制打破を狙ったかどうか別にして、中国をSDR構成通貨にするまで指導し続けたのは欧州主導のIMFであったことは確かだ。(ピルズベリーの『2049China』参照)
その意図がなんだったのかが焦点になる

北野の主張では、05年ユーロの通貨紙幣の量がドルを上回るなどして、ドルの弱体化が進み、リーマンショック以降ロシアでは「米国一極時代が終焉した」「多極時代になった」と言われているという。
これはロシアの見方かもしれないが、事実認識がおかしい。
GDPから見ると「米中二極時代」になったという。
そして、中国人民元がSDR構成通貨になるのを米国は防げなかった。
シリアを攻撃しようとした時もロシア、フランスのみならずイギリスまで反対して成立せず、AIIBにはEUがこぞって参加する始末…

政治的には米国は敗北をしているかもしれない。
しかし米国が没落してGDPが縮小したわけではない。
中国がGDPがリーマンショック後9%と高成長したのは4兆ドルの財政出動によってバブルを膨らませ、不良債権を膨らませただけであり、それは必ずしぼむものだ。
中国が大きく台頭してきたといえるのは軍事力ぐらいで、人民元の信用度はあくまで新興国レベル。世界中央銀行での人民元の準備高は円よりもはるかに低い。
経済のレベルは中進国のジレンマの真っただ中。そして成長の限界点が来て内需型に変革できるかどうかの瀬戸際なのに、失業率と格差はもはやクーデターレベル。
この程度の国が米国と並ぶ覇権を取ったということができるのだろうか?
ロシアでなければこういう状態を「米中二極時代」とは呼べないだろう。

北野は「沈む中国」と「昇る中国」が同時並行していると書いているが、軍事的にはともかく、経済の中身に関しては認識が甘い。


6)安全保障上の考察
欧州(少なくとも英・仏・独)がIMFを通じて中国をここまで育て上げたのは間違いない。
彼らは欧州の統合で特にポーランドなどの安い労働力を得ることで新たな成長を稼ぐことができたが、すでに欧州圏内では行き詰っている。さりとてウクライナに手を出したらロシアから強烈なしっぺ返しを受ける。
欧州(英・仏・独)としては中国を新たな成長のための市場として2000年以降最大限期待したはずだ。
2009年リーマンショックが欧州をも襲いかかりEU経済は風前のともしびだったが、中国が大規模な財政出動をしたおかげで生き延びた。
特にドイツは自動車をばんばん作って売って儲けたしフランスもワインやブランデー、化粧品を売りまくった。

翻って考えてみると、水野和夫によれば米国はIT金融という新しい市場で資本主義の生き残りを図ったが、欧州は中国に資本主義の生き残りを託さざるを得なかったのかもしれない。
なぜ民主主義国家の東南アジア諸国やインドに向かわなかったのかは分からないが、少なくとも英・仏・独はIMFを通じて90年代から中国を育て上げてきた「恩」があるので、儲けさせてもらえるに違いないと踏んでいただろう。

実際は水野和夫の考察が正しく、米国でも日本でも英・仏・独でも実体経済の成長は終わっている。
金があふれかえるIT金融市場におけるバブルで儲ける以外、資本家が儲ける方策はなくなっている。
資本主義はもう終焉を迎えている
のだ。


SDR構成通貨入りは英・仏・独の当初のシナリオだったのだろう。
日本にとっては迷惑な話だ。
日本も戦後賠償の形で中国のインフラ整備には散々資金今日させられてきたのだが、中国は東に牙を向けてきている。
英・仏・独が中国の経済をなんとか立て直し、さらに成長させようとすれば、西太平洋(東シナ海、南シナ海)はいよいよ中国がでたらめな論法でのさばり出す。
中国の巨大化は日本の安全保障上の重大な危機におとしいれ、米国をも重大な危機に陥れつつあるが、
それが英・仏・独の本当の狙いだったのかもしれない
米国と中国を対立させて双方が弱れば、EUが浮上する目があるというのか?
少なくとも東南アジア、インドやオーストラリアに艦船、戦闘機、武器を売ることでビジネスになることを考えている可能性はある。
実体経済で唯一残された手段は、自分が先頭に関わらない地域での対立の危機を増幅することなのかもしれない。

危険な考え方だ。
これに乗って第三次大戦でも起これば、日本は終わりだが、米中も相当ダメージを受けるし、資本主義も本当の終わりを迎えるかもしれない。


隠された英・仏・独に対抗する日本の戦略は、軍拡競争に乗せられるなく、中国を静かに崩壊させることだろう。「静かに」の準備としては当然人民解放軍の無力化も必要だろう。

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