スティグリッツの考える経済改革(1)

スティグリッツ著『世界の99%を貧困にする経済』から
彼が考える現代経済の根本的な問題点の一つについて概説する。


貧しいユダヤ系の家庭で育った彼は労働階級のための経済を研究し続けてきたようで、同じユダヤ系のスウェーデン国立銀行賞(俗にいうノーベル経済学賞)受賞のフリードマン(新自由主義)やクルーグマン(新ケインズ流派)らとはまるで異なり、毅然と現代の経済の根幹部分を批判し続けている。

ここ20年の経済は事実上FBR(連邦準備制度:米国の中央銀行)によって、常に一般国民の雇用や所得より大銀行の利益に有利な政策がとられ続けてきた、その結果格差が大きく広がった、と注目すべき主張をしている。

我々は米国経済やひいては世界経済はフリードマンやクルーグマンのような経済学者のその時々の経済理論で変遷してきたかのように考えていたが、スティグリッツによると、それ以上に米国の一部大銀行の連中が損しないように、儲かるように金利が調性され続けてきた、という。

米国の金利政策は世界経済に多大な影響を及ぼすことは今さら言うまでもないことだ。米国金利がゼロに近づけば資金は途上国へ流れ、米国が金利を上げれば資金は米国に戻ってくる。
ここ20年来、いかに米国一般国民の所得が上がらず生活が苦しかろうが大学を卒業した若者が奨学金の返済を迫られて自殺に追い込まれようが、Apple,Googleといった上手に税金を逃れる高収益企業に続く米国の革新的企業群へはいくらでも投資が集まる。その資金の流れは他国に対する金利で決まる。
投資を必要としている資源国の生殺与奪の権限は、FRBが握っているといっても過言ではないだろう。

スティグリッツによると、そのFRBはグリーンスパン議長時代からやっていることがおかしい。
1993年、グリンスパン議長は政府に対して赤字削減のための行動を促した。議長は赤字削減が金利を下げ、そのことで経済が完全雇用状態に回復すると考えた。しかし当時米国経済は過熱していたのでなく高失業率状態にあったので、雇用調整などの赤字削減策が金利低下につながる道理はなかった。結果、金利は3%を切る程度までしか下がらなかった。
この時スティグリッツは、グリーンスパンは金利をもっと下げるべきだったのになぜ下げなかったのか?と問う。 金利を下げ融資機会を拡大すれば経済を成長路線に乗せることができたはずであり、それによって赤字が劇的に削減される見込みもあったのだが、FRBはそれをしなかった。
2001年にはグリーンスパンは減税を行うよう議会を強く促して膨大な赤字を生み出し、それによる不況に対してはさらに金利を1%以下に下げることで対応した。 これらの政策はあたかも中央銀行の真の目的が、政府の規模を縮小し、税率の累進性を減じることだった、というように解釈できる。(注1)

中央銀行のような公的機関は民主主義国家では説明責任を負わねばならない、とスティグリッツは再確認させている。不正行為がないこと、付託された権限内で機能すること、その権限が公益に沿うものであること。それらに対してFRBは一度として説明責任を果たしていない。 しかもそれを国民の目線で監査するシステムは米国にさえないのだ。
国民にとって通貨政策はその経済の中心的な決定要素であり、失業レベルとその変化は選挙結果に直接影響する重要因子である。 しかし、FBRの七人のメンバーと12名の地区連銀総裁で構成される委員会のメンバーを選ぶプロセスは不透明で、統制下にあるはずの銀行の影響があまりにも大きい、というのがスティグリッツの批判だ。

2007年のリーマンショック当時、ニューヨーク連銀総裁を選定したのは、最も有利な条件で救済された会社を経営する銀行家その人々だった。<以下筆者補足>戸建て住宅を買っても返済できるあてのない労働者にサブプライムローンを提供しそれを切り刻んで世界にばらまいた張本人は、リーマン・ブラザース、AIG、ゴールドマンサックスといった連中であったのに、大量の税金でAIGを救済し、その海外債権を大量に保有する外資の銀行を救済することで、その外資の銀行株を大量に保有していたゴールドマンサックスが最大の受益者となった。恐るべき金融機関の権力構造である。ニューヨーク連銀総裁がゴールドマンサックス出身者であること以外には説明がつかない。リーマン以下の地方の小銀行はすべて救済されていない。 公的機関の中立性など微塵もない。
小生は日本の(土地)バブルを引き起こした銀行が経営者の責任を追及されず全て救済された当時を思い出した。そのあと地方の公聴会に来た金融庁副大臣になぜ銀行が勝手に作り上げたバブルの始末を銀行の経営責任とせず国民の税金で補てんしなければならないのか直接問い質し、追及したのを覚えている。もちろん実務も経済理論も分からない馬鹿な政治家には何も答えられるわけがなかった。<以上筆者補足>

スティグリッツが批判しているのはこういう点である。統制する企業に公的性格があればこそ、統制する委員会の有力メンバーに企業の利益代表が入るのはおかしい。日本でいえば原子力規制委員会の有力メンバーを東電などの電力会社出身者にするようなものである。複数の国では(民間)金融部門出身者の中央銀行理事への就任が禁じられている。金融部門の関係者は取引にはたけているが、複雑なマクロ経済の相互依存性の専門家ではない。学会、NGO、組合に真の専門家はいる、とスティグリッツは主張する。これは間違いのない話だろう。経済学者にも色々な学説があるのも確かだが、銀行屋に通貨政策を任せるのは間違っている

FBRの政策の基礎とする経済学説に重大な欠陥がある。FBR選定の政策は、自宅保有者、労働者、納税者を無理やりリスクの矢面に立たせる一方で、おいしいところは銀行が持って行ってしまう、そんな政策でなく別な政策を取っていたら、国民はもっとましな暮らしができていたはずだ。たとえ銀行が特に美味しい儲けがなかったとしても。スティグリッツは銀行(+証券会社)こそ何度でもバブルを作りぼろもうけを図ってきた張本人であるとしているようだ。
だから、FRBは全く別の人々で構成されるべきであり、そこに銀行出身者が混じっていてもその仕事を国民が監査できなければならない、ということだろう。

先進国が成熟してきて製造業が成長エンジンとならなくなってくると、先進国は金融部門で収益を膨らませることに奔走してきた。日本の土地バブル、21世紀初頭のITバブル(エンロン疑惑)、サブプライムローン、今は中国が不動産バブル崩壊過程にあり、米国ではリグバブル(シェールガス・オイルへの投資バブル)が崩壊しかかっている。(注2)
これらの胴元は全て銀行/証券会社であるが、それをあたかも社会全体が成長するように見せかけて金利を上げるのは、一見公的機関で実は胴元のコントロール下にある中央銀行だったとしたら大変な問題だ。 実際の価値以上に価値を吊り上げて、ネタバレしたら経営者の責任は一切取らずに胴元の損失は全部税金で補てんする。 こういうバブルで儲けられる企業・個人はごく一部で、一般国民は国が財政赤字になることで知らないうちに公共サービスを削られ貧しくなっていく。
これがグローバル経済の弊害と並行している現代の経済の根幹であり、水野和夫が「資本主義の終焉」と呼ぶ実態だ。

マイケル・ハドソンの『Super Imperialism 超帝国主義国家アメリカの内幕』は難解な解説書だが、1970年代まで米国がいかに世界を金融で支配してきたか、の赤裸々な真実が当時の金融政策担当者によって暴露されている。当時は確かに米国は世界を自分の都合通りに支配していた。米国だけが利益を取れる仕組みだった。そのため2000年に至るまで日本では出版許可が下りなかった。日本人が怒り狂うからである。
それが現代では米国民は置き去りにされ、米国の一部大銀行、企業とそれにつながる政治家の利益だけのための支配に変質してきている。GDPの数字がいくらあっても一般国民はグローバル競争にさらされるため20年以上所得が上がらず、公共サービスは削られ、より生きづらくなってきている。 もはやGDPは国民に何の意味もなくなってきている
これがサンダースやトランプが支配階層の候補者より国民の支持を受けている最大の背景だ。
支配階層や投資家はトランプがFRB議長を更迭することを恐れているが、トランプは借金王なので投資家たちが好むのと同じように低インフレ政策を継続するだろう。それがサンダースやスティグリッツとの違いで、正しい構造改革が期待できない大きな理由でもある。


注1)景気が過熱している状況では金利を上昇し投資を抑制することで物価上昇を抑えることができるが、雇用には影響しない。一方不況で金利を下げて投資を促進することが景気を立て直して雇用を回復するとクルーグマンらスティグリッツ以外の経済学者は考えてきたが、逆は真ではなかった。クルーグマンの考えに沿ったような低金利導入は米国でも雇用を回復せず、アベノミクスも失敗している。
スティグリッツはこれを「FBRの政策の基礎とされてきた経済学説に重大な欠陥があった」と批判している。

注2)
これだけ長期間低金利が続いていて日本の銀行はどうして成り立つのか?と考えたことはないだろうか。
預金金利だけでは給料を払えるわけがない。ATM手数料は増えていくものではない。企業や個人への貸出金利も非常に低いからそれでも厳しい。
企業の多い大都市の以外の地銀や信金が青色吐息なのに対して、メガバンクが相変わらず高い給料を払い続けられるのはなぜだろう?
証券が扱えるといっても、EUも米国も低金利であり、BRICSもすべて大きく傾いている。今どき世界を見渡してどこにそんなに金利が稼げる国がある?
それは海外に事業展開しているからだ。東南アジアあたりでまっとうな銀行業をしているならまだしも、ヨーロッパや米国に支店を作って投資をして稼いでいるわけだ。そしてその一部はITバブルに引っ掛かり、サブプライムに引っ掛かり、それでも税金で救済されて、またぞろリグバブルに手を出しているだろう。それがコケでも経営責任であり、日本国民の税金を使って救済してはならない。これだけは確実に言っておく。





ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック