台湾侵攻シナリオの再考(2)

ーロシア製防空ミサイルシステムS-400-
 台湾海峡の幅は最も狭い地点で130km、北端で150-160km、南端で250-260km、水深は大部分が100m以内、台湾島の東西の幅は最大144km。
したがって大陸側福建省沿岸から射程400kmの対地ミサイル、対空ミサイルがあれば台湾島全土とその上空が射程に入る。
次図はPLAの基地と台湾の距離を示したもの。
画像
(地図蔵 中国人民解放軍の軍事施設(空軍、海軍)に距離の補助線を引いたもの)
 ただし海峡の気象条件のため、上陸のために大量の船舶が大陸から台湾島にわたるためには4月と10月の年8週間のチャンスしかない
(前出Newseek記事参照)
   Newsweek2018年10月4日

1.ロシア製S-400の恐るべき能力
S-400の基本構成は下図のように、ミサイルを輸送し直立させて4発を発射する移動式発射台(ランチャー)③と誘導ミサイル④の他に、強力な早期警戒レーダー①②と統合管制車の4台が組み合わせたもの。
複数のランチャーが攻撃ユニットを形成し、ほぼ同時に複数の地対空迎撃が可能となる。
通常はランチャー8基と32発のミサイルで大隊を構成する。
S-400 図解.jpg
   TrendWatcher 12.04.2018

参考に示した記事には、「400km以内の100個の目標を処理できる多機能レーダー」という記述と「S-400は400km先の6個の目標に対する同時処理能力を有している」という記述がある。
発射できるミサイルには以下の5種類があり、射程によって誘導方式が異なる。
A 9M96E 有効射程:40km 最高速度:900m/s アクティブ・レーダー
B 9M96E 有効射程:120km 最高速度:1000m/s アクティブ・レーダー
C 48N6E2 有効射程:200km 最高速度:2000m/s セミアクティブ・レーダー
D 48N6E3 有効射程:250km 最高速度:2000m/s セミアクティブ・レーダー
E 40N6  有効射程:400km 最高速度:不明 セミアクティブ/アクティブ・レーダー

アクティブ・レーダー方式はミサイル④自体が電波で目標を追跡し続けるタイプ。セミアクティブ・レーダー方式は発射母体のアクティブ・レーダー②の反射波をミサイルのシーカー(センサー)が受信して追跡するタイプ。
アクティブ・レーダー方式は米軍のハープーンミサイルと同じ方式。セミアクティブ・レーダー方式は、中途航程において慣性/指令誘導を採用し、発射されたミサイルに対するイルミネーター(ミサイルの誘導を担当するレーダー)の関与を終末航程のみに限定するもので、米軍ではSM-2で採用している方式。
後者は情報処理能力と合わせた時分割処理化により同時に多目標の対処を行う高度なコンピュータ制御が必要で、イージスシステムがその例だ。
なおA~Eのミサイルが900m/sの速度と考えると、打ち込むミサイルを目標の上空でぐるぐる逃げ回るようにしておいて、それらを迎撃するためS-400のミサイルが追いかけ続ける間に、別なミサイルを撃ち込んで破壊する、といった手段は成立しない。
米軍の巡航ミサイルの速度はせいぜい300m/s程度なので、簡単に追いつかれてしまうからだ。

一方、漢和防務評論(カナダの中国軍事ウォッチャーによる中国の軍事レポート)のレポートによると、
「S-400のレーダー、火器管制システムはS-300シリーズを指揮することができる。」「また同時に36個の空中目標(同6個)をENGAGEし、同時に72発(同12発)のミサイルを誘導し攻撃を実施することができる。」とある。
前出の記事とまるで性能が違う。また、「S-400の探査レーダー①の有効範囲は600km」だという。
参考)『中国のS-400地対空ミサイル』 漢和防務評論20181210(抄訳)阿部信行氏
これが本当だったら、同時に20の目標を撃墜できるというイージスシステムをはるかに上回る高度な火器管制システムが移動式で実現したことになる
恐るべき対空防御システムだ。

なお、S-300のミサイル誘導はEVM誘導で、ミサイル先端のシーカー(センサー)で得た情報を地上のレーダーで受け取って情報処理する方式で、米軍ではPAC-3を含まないパトリオットで採用されている方式。
このEVM処理もS-400の火器管制システムで処理できるという事だろう。

上の『中国のS-400地対空ミサイル』、通常の状況下ではS-300はS-400に置き換えられるというが、「台湾進攻」の事態となると、S-300のミサイル群(ランチャー)もS-400のシステムで同時にコントロールする運用となると予想される。別々に運用すると同じ目標に対してS-300とS-400が別々に撃墜しようとしてしまうからだ。したがって、基本はS-400の発射台8台32発が1大隊(S-400に関するTrendWatcherの参照記事による)だが、これにS-300の発射台8台32発も加わって1大隊として行動することになる。

このシステムだと同時に16の目標に対して最大16台の発射台から16基のミサイルを同時に発射することができることになる。
S-400の発射台から発射するミサイルはステルスミサイルに対応できるとされているが、発射台が8台なら迎撃ミサイルが同時には8基しか発射できない。それならば同時に9発のステルスミサイルを撃ち込めば破壊できるかというと、そうはならない。最初に1発撃墜した瞬間に次のミサイルを発射して設定した目標に誘導できるからだ。
むしろ、こちらがステルスミサイルを24発打ち込んだとしても、S-400の8台の発射台(ランチャー)から同時に8発、その後に8発、さらに8発発射して、中途航程まで慣性/指令誘導しておいて、早いものから順に目標を割り当て、Engagement Radar(誘導レーダー)でそれぞれ別々に誘導するようにできる、イージスシステムのようなものを想定した方がいいだろう。

2.S-400を破壊する手段はあるか?
こんなバケモノみたいなシステムをミサイル攻撃で破壊するのは困難だが、迎撃ミサイル個々の能力を考えると可能性は十分にある。

長い射程のミサイルC、D、Eが迎撃に失敗したとき、標的は距離200km以内に入ってくるが、まだ短射程のミサイルA、Bを発射すれば迎撃可能だ。
ただし、AやBのミサイルに搭載しているアクティブレーダーではステルスミサイルの極めて弱い反射波を感知できない
可能性が強いので、射程200km以内に入り込めばS-400を破壊できる可能性は十分にありそうだ。

S-400の射程250km以上の迎撃ミサイルを打ち尽くしたとき、この大隊の火器管制システムを破壊するチャンスが出てくる。
グローバルホークはイランに撃墜されたが、S-300のミサイルのシーカー(センサー)はより高いステルス性能のミサイルの
反射波を感知できないので、米軍のステルスミサイルは発射台に着弾することができる。
ただし、それまでの迎撃ミサイルの軌道から発射地点を割り出す計算を行って、ミサイルに指令できればということだが。

S-400の32発のミサイル構成は分からない。射程250km以上のミサイル(上の表のC,D,Fタイプ)が何発あるかは分からない。
事前に台湾工作員が目視で大きいキャニスターの数を数えて報告するか、衛星写真を解析するかすれば、ある程度判断できるかもしれない。
それにより、その大隊に打ち込むステルスミサイルの数がきまる。
分からなければ最大数の32+1発撃ち込む必要がある。(S-400のミサイルが全てC、D、Fのタイプの場合)S-300の32発のミサイルはTVM方式なのでステルス性の高いミサイルは迎撃できない。
したがって33発目のステルスミサイルは目標を破壊できる。

ステルスミサイルは1発1億円以上と高価だから、S-4001大隊破壊するのに30億円以上とは高くつくものだ。(JASSM1基の日本の購入価格は1億4千万円)インドはS-400を購入するのに5基分で50億ドル(5700億円)かけるという。5基というのは5大隊分(発射台40台、ミサイル160発)の意味と考えらえるが、イージス艦3隻程度なのかもしれない。(イージス艦は1700億円ぐらい)
しかし、イージス艦3隻以上の能力がある。

   日経新聞 18年10月8日記事

(1)工作員による破壊工作
しかし、もっと安くやる方法はある。
「台湾進攻」の確証をつかんだ段階で、台湾工作員に破壊工作をしてもらうのだ。
ロケット砲を打ち込むのが難しくても、プラスチック爆弾を積んだドローンを飛ばして1大隊に2車両しかないレーダーか、コンピューターを搭載している指令車両に着地させて爆発させてもいい。
それができれば1大隊を無力化できる。

S-400の配備先はある程度予想されている。
上の『中国のS-400地対空ミサイル』(漢和防務評論20181210)によれば、福建省での候補地はすでにS-300大隊が配備されている水門飛行場、龍田飛行場、厦門基地であり、あとは上海と北京だという。

次図はその3つの基地と台湾の地図の上に400kmの射程範囲を作図したものだが、400kmという射程は笑ってしまうほど広いことが分かる。
S-400の配備が予想される基地.jpg
S-400を破壊するか、S-400の32発のミサイルを打ち尽くすまでは、この空域には台湾側の戦闘機は入れない。
PLAのS-400の配備が空軍基地を守るのが主眼らしい。地図によれば台湾島の対岸には7つの空軍基地があるが全てにS-400やS-300の大隊を配備してもお互いの目標が重複して迎撃ミサイルを無駄にすることになる。
本当に重複を避けるなら、龍田飛行場は不要だろうが、南北どちらかのシステムが破壊されたときのバックアップとして配備するかもしれない。

(2)ミサイルによる飽和攻撃
台湾工作員による事前の破壊工作が失敗した場合、「台湾侵攻」のPLAの戦闘開始直後の段階でこれを実施したい。
これをしなければ、PLAは台湾に対して巡航ミサイルの雨を降らせて空港や軍港や軍施設、通信設備などを破壊しまくり、戦闘機を飛ばして爆撃できる一方、台湾側は対岸の巡航ミサイルを少しも破壊できず、戦闘機を飛ばしてドッグファイトすることもできない。

大量のミサイルを同時に打ち込むには攻撃型ミサイル巡洋艦からステルス巡航ミサイルLRASM(射程1000km)を大量に発射するのが効率的だ。ミサイルの射程が1000km(940km以上)なので、PLAの弾道ミサイルDF-16やDF-21Dの射程に入るリスクがある。
ミサイル巡洋艦は標的としては空母に比べて小さく速度も速いので、リスクは大きくはないと考える。

より安全なS-400+S-300に対する飽和攻撃作戦は戦闘機を使った作戦だ。
嘉手納の米軍第18航空隊は早期警戒管制機E-3、戦闘遭難救難ヘリHH-60以外は三沢や横田に退避させておき、射程1000kmの巡航ミサイルJASSM-ERを搭載できる三沢のF-16C/Dを嘉手納に置き換えておくものとする。
(嘉手納のF-15C/Dは射程の長いJASSM-ER巡航ミサイルを搭載できないため、S-400の射程外から攻撃できない)
空自の主力F-15Jも射程の長い巡航ミサイルを搭載できず、敵基地攻撃能力がない。
嘉手納基地、普天間基地からF-16戦闘機にステルスミサイルJASSM-ER(射程1000km)を搭載して、S-400射程圏外から目標に打ち込む。

撃ち込むミサイル数に不足があれば、グアム空軍基地からB-1爆撃機を出撃させるのが良いだろう。B-1は44mと大きく、JASSM-ERを10基搭載することができるので、5機出撃させれば沖縄から出撃するF-16C/Dと合わせてS-400+S-300への飽和攻撃が成立するだろう。
または第7艦隊空母ロナルド・レーガンのF-18艦載機といった戦闘機にJASSM-ER(射程1000km)を搭載して、S-400射程圏外から沿岸に打ち込む方法もある。

このような作戦が成功すれば、大陸対岸のS-400システムとそれにリンクしているS-300を破壊でき、
台湾上空の制空権をPLAの手から解放できる。それでもイーブンになっただけで、特段台湾側が有利になったわけではない。
最初のPLAの巡航ミサイルの数発の攻撃で空港が使用不可能になっており、戦闘機が出撃できない状態になっているからだ。

さらに言えば束の間の制空権奪取かもしれない。上海などに配備されていたS-300ないしS-400を移動させてこないとも限らない。
それを遮る手段はないだろう。
台湾側の巡航ミサイルが撃墜されるようになったら、また飽和攻撃を繰り返すだけだ。
PLAは常に物量作戦をとると考えておくべきだろう。

S-400とそれにリンクしているS-300の対空システムを破壊できた時に直ちにやるべきことは、台湾侵攻の拠点になる空港施設と軍港の破壊である。
PLAの戦闘機も応戦してくるので、ドッグファイトを避けて中長距離の巡航ミサイルを撃ち込むのがいいだろう。
これをしておけばPLAはやや遠い空港から出撃せざるを得ないので、戦闘機の台湾上空の滞空時間つまり空爆時間を減らすことができる。

空港施設が破壊できたら同様に福建省の軍港施設と艦船を破壊したい。YJ-18はYJ-18Cという改良版が民間貨物船にも搭載されるので、ミサイルを発射している船舶が特定できれば、YJ-18Cを載せている貨物船も破壊する必要があるだろう。

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