新型コロナウィルス 「セントルイス市方式」は効果が期待できるか?

 第一次大戦中の1918年から19年にかけて、スペイン風邪とよばれた新型インフルエンザが猛威を振るい、全世界で感染者5億人、死亡者5000万~1億人(推定)という空前のパンデミックがあった。
 この時は戦争中で各国とも情報統制が敷かれていたため、敵国に弱みを知られないたくないため、参戦国はどこもインフルエンザの流行を公表していない中で中立国のスペインだけがそれを公表したためその名がついたが、実は米国が感染源だった。
 この時、世界で唯一感染の拡大抑制に成功したとされるのがセントルイス市だ。
 セントルイス市長は感染率2.2%(推定)、死者1名という段階非常事態を宣言し、 集会、イベントを禁止、学校、映画館、ダンスホール、酒場も閉鎖した。市長はむちゃくちゃに非難されたが、市長は市民の生命を守ることを優先するとして曲げなかった。その封鎖をなんと5週間も続けた。その結果医療崩壊を免れ、社会機能を維持することに成功した。
 それに対比してフィラデルフィア市は感染率10.8%(推定)まで放置してから同様の封鎖措置をとったが、病院・診療所に診察も治療も受けられない感染者があふれ、医師・看護師が不足して医療崩壊し、多数の死者を出した。(中国の武漢市と同じ状況だったわけだ)
セントルイス市での集会自粛の効果.jpg

 感染症専門家が頻繁に「ピークを遅らせる必要がある」という言い方をしているが、この図を見るとセントルイス市はピークを遅らせているようにも見える。確かに流行を5月6月まで遅らせれば気温も上がり湿度も上がりピークを低くできるだろうが、セントルイス市やフィラデルフィア市の場合は9月末から12月にかけてだ。ただ流行を遅らせればより低温で低湿度の悪環境になりかねない。 そうではなく、人の集まりをなくして感染の広がりを抑えることが、当時のセントルイス市では感染者の数が医療限界を越さずに済む感染拡大抑制に有効な手段だったということだ。(注 医療限界とは病床数、医師・看護師の数が対応できる地域ごとの限界のこと)

 昨日安部首相は全国的なスポーツ・文化のイベントの延期・規模縮小を要請し、今日3月2日からの全ての学校の休校を要請した。安倍首相は専門家が「ここ1,2週間がヤマ」と言っていると言ったが、理解していないのか、経済活動への影響を考慮して5週間とまで踏み込めなかったかは分からない。


 中国はどうしているだろうか?武漢市湖北省以外は外出禁止令が説かれて経済活動を再開して通常生活に戻っているだろうか?いや、どこも動いていない。
 筆者は中国中央政府は2月末時点まで大都市と地方を結ぶ交通を意図的に遮断していると考える。どうやら中国は「セントルイス市方式」を全ての大都市で本気でやるつもりではないだろうか?
経済活動をすれば満員電車やバスや職場で人々が濃厚接触し、感染が拡大し、どの都市でも医療崩壊に陥ってしまう。結果的により大きな経済的ダメージを受けることになる。それより5週間の経済停止を選んだのだろう。

 日本もこれしか選択肢はない。『1,2週間』ではない。『4~5週間』だ。労働者の生活費の補償や中小企業の資金繰りの手当てをしてそこまで踏み込まなければ、確実に『医療崩壊』に直進する

 関東地方1都6県の第2種感染症指定病院の病床数は462床。ダイヤモンドプリンセス号からでた感染者数は27日時点で705。すでにダイヤモンドプリンセス号からの感染者だけで感染症対応の病床は満室だ。
 関東地方はもう詰んでいる
 東京や神奈川で新たな感染者が発見されても、第2種感染症指定病院は(山梨の30床を含めて)近県に空きがないのだ。こうなると無症状感染者をどこかの施設に長期間隔離して、新たに発生した患者を受け入れなければならない。
 もっと感染者が増えてきたら普通の病院の入院患者を全部別の病院に移してまるごと感染者用の病院に切り替えなければならない。(すでに韓国の大邱市(テグ市)はそういう措置をしているが、なおかつ病院も医師も不足しているという。これも医療崩壊が現実になった例だ。)
しかし、そんなことは自治体レベルでそうそうできるものではない。どこにも医者と看護師と病床があまっている病院などないのだから。

 もっと怖いのは国がさっさと検査を保険適用せず、都道府県単位の保健所任せにしているため、まるで検査をせずに普通の肺炎として普通の病院に通院/入院している感染者が大勢いる可能性があることだ。大阪や京都など団体でない個人の中国人観光客が多く紛れ込んでいる有名観光地で患者数が1名などというのは信じがたい。
そういうところは突然院内感染で感染者が大勢出てくる可能性が高い。

 武漢市は間に合わなかった。大邱市も間に合わなかった。東京、横浜、名古屋、大阪…日本が間に合わせるためにはもうぎりぎりの段階だ。
集会禁止による外出抑制という「セントルイス市方式」はとるべきだろう

 ただし、1918年のセントルイス市と現代の東京・横浜のような大都市とは決定的な違いがある。
満員のバスや電車による通勤をなくさない限り、集会だけ禁止しても効果が小さいという事だ。
残念ながらそこは、中国中央政府の方が読み切っているようだ。経済政策を失敗すれば首が飛ぶのは中国共産党も自民党も同じだろう。
それでも中国中央政府は「経済ほとんど停止」状態で我慢しているのだから大したものだ。
自民党にまねができるか?

筆者は日本も中国中央政府のように「経済ほとんど停止」(インフラ、医療関連、食料生活物資、公共サービス以外の経済停止)をして国民の生命を守り『医療崩壊』を防ぐべきだと考える
経済を動かしている限り、感染は急速に拡大し、医療限界を超えてしまう。
そうなったら医療スタッフまで倒れていき、待っているのは累々とした屍の山だ。経済活動は底なしに落ち込み、復旧できなくなる。
死者・重症者の数以上に経済は大きく落ち込む。
国家の信用も完全に失う。
1か月「経済ほとんど停止」して医療崩壊を回避できれば、そのあと経済は元に戻せるのだからどちらを選ぶべきかは明確だ。

今求められているのは究極の危機管理だ

一方、全国の学校・幼稚園・保育園を全面休校にした場合、一定数働きに出られない女性が出てくる。
共働きなどほとんどなかった1918年のセントルイス市と現代日本のもう一つの違いだ。
休職手当だけの問題ではない。
看護師が働きに出られなくなったら病院・診療所は機能しなくなる
そこをきちんと対策して看護師が仕事に出られるようにしておかなければ逆効果になる。
一部の子供だけを優遇して小学校・幼稚園・保育園も部分的に継続すべきだろう。


追記)
中国は湖北省、武漢市を除いてセントルイス市方式/を終了したらしい。
2月22日(土)の週末から人々は繁華街に大挙して繰り出しているという。

上の記事によると、1月23日の武漢市封鎖、25日の各大都市の封鎖に始まって、およそ1か月中国全土で「経済ほとんど停止」政策を実施したため、感染したものはほぼ発症し終えていると判断したのかもしれない。
発症者が減少したという事は感染者が減少しているとイコールではないが、十分な数を各地でモニタリング(PCR検査)できていれば、そういってもおかしくない。
セントルイス市は5週間封鎖したが、中国は4週間の封鎖で終了させたという事だろう。
このやめ際は極めて難しい。ただ、感染者数が各地の病院・診療所の医療限界を十分下回っていれば、仮にまた増え始めてもしばらくは余裕がある。

湖北省以外で、全ての帰省者が大都市に戻り、製造現場が動き始め、人々が満員電車で通勤通学を開始し、スポーツや文化イベントなどの集会も行われていくのかどうか、まだ今後を見守る必要がある。

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この記事へのコメント

たかたか
2020年03月13日 23:37
いい考察だと思います。ただ、30日では足りないかもしれません。
いずれにせよ、短期的な経済崩壊か、長期的な経済崩壊か、どちからを選択するしかない状況に追い込まれるでしょうね、このまま事が推移すれば。
にたやま
2020年05月08日 00:02
グラフが間違っています。10万人当たり連日13000人も死亡したら、フィラデルフィアは8日で人口がゼロになります。行政の提供するグラフは非常にトリッキーなことが多く、読み解くためには、ほぼすべてに注釈や但し書きが必要になります。