新型コロナウィルス これまでの知見の整理

 新型コロナウィルスSARS-Cov2(ウィルスの学名はSARS-Cov-2、WHOのつけたCOVID-19は症状に対する通称)に関してははっきりと分かっていないことが多い。
分かっていることは「相当手ごわいウィルス」という事だけだ。
 筆者の集めた知見を整理して書き終わったところで、ちょうどNHKスペシャル「人体VSウィルス」の放送があったのでそれによる新しい知見を追記したが、いくつかの疑問点、矛盾点があるのはそのままにしている。NHKは自分の集めた情報を他と矛盾しようがしまいがお構いなしに、さも自分たちが正しいものだけを並べたかのように番組を構成するが、かなり怪しげな部分もあった。
まだ実際に人体の中で起こっていることが解明されてはいない。

1.感染力
 何といっても発症する前から感染力があることが最も手ごわい。自由に動き回れる無症状感染者が感染者の4割程度を占める点が脅威だ。平均すると感染して5日目には発症するが、発症せずに2週間後に陰性化するケースも多い。その人がPCR検査を受けなければ本人も知らずに2週間感染を拡大させていることになる。インフルエンザは発症しない限り人に感染させることはない。インフルエンザは発症すれば高熱が出るので病院に行ってすぐ診断されるから、その時点から(きちんと自宅療養すれば)人に感染させる心配がなくなる。
 新型コロナウィルスでは発症後8日目以降では逆に感染力が落ちるというデータがあるが、患者が動けなるためだろう。

2.ウィルス侵入の機序
 SARS-Cov2ウィルスはSARSウィルスと同様に寄生主の細胞表面のACE2レセプター(受容体)にウィルスのスパイクたんぱく質がリガンド(受容体に対するカギ)となることで寄生主の細胞に侵入することが分かっている。気道や肺胞、鼻孔の細胞表面にACE2レセプターが多い人は重症化しやすいと考えられる。高血圧の人はACE2が多いため重症化する原因と考えられる。
 また喫煙者はたばこの煙が肺胞のACE2を増やす働きがあるため重症化しやすいという報告がある。(「喫煙が新型コロナの重症化進める  米研究グループ、論文で明らかに」
 一方で全く逆の指摘もある。4つの大掛かりな後ろ向きコホート研究では喫煙者の陽性率、重症化率は非喫煙者に対して統計的に有意な差が出ていないか、喫煙者の方が有意に低い。ニコチンがACE2レセプターをブロックする可能性があり、フランスでは重症化防止のためニコチンの投与が検討されているという。(「喫煙がコロナを重症化」への反論) つまり喫煙で重症化するのかしないのかの現時点では結論は出ていない。
 なお、COPD患者は重症化しやすいがぜんそく患者はそうではないという。(国立成育医療研究センター研究所 免疫アレルギー・感染研究部部長の松本健治氏
 一方、ACE2レセプターはACEアンジオテンシン変換酵素の働きによって作られるもので、高血圧患者の治療にはアンジオテンシン変換酵素を阻害するニコチアナミンが知られている。ニコチアナミンはACE2を作らせないため、ウィルスの侵入をブロックする働きが期待できる。より有効な予防薬を作るなら、気道、鼻孔、肺胞のACE2レセプターをブロックするような吸入薬を作れば確実に感染予防できるだろう。


3.重症化
 小児、十代ではほとんど重症化しない。逆に高齢者、循環器系・呼吸器系疾患の持病のある者、高血圧・糖尿病患者、がん患者などが重症化率、死亡率が高いが、その機序はまだ明らかではない。
 新型コロナウィルス肺炎が重症化すると急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に陥る。こうなると酸素吸入では間に合わなくなり、首に穴をあけてパイプを突っ込み人工呼吸器をつなぐ必要が出てくる。世界的にも酸素吸入で済む段階は「軽症」または「中等症」の肺炎とされ、人工呼吸器を要する段階を「重症」とみなす。重症化すると呼吸器不全だけでなく心不全、腎不全といった合併症を伴う場合も多い。酸素=二酸化炭素の交換まで人工的に行うのがエクモで、この段階を「重症」の上の段階として「重篤」と表現する場合もあるが、エクモを使いこなせる医師は全国に50人程度しかおらず、1台のエクモには医師、看護師、理学療養士など10人近いスタッフを要するので国内ではエクモはそれほど多く稼働していない。


4.サイトカインストーム
 サイトカインストーム(正確にはサイトカインストーム症候群(CCS))は免疫細胞の一つキラーT細胞がインターロイキンIa、Ib、6などの炎症性サイトカインを過剰に産出して自身の組織を大きく損傷してしまう現象。サイトカインはTh(ヘルパーT)細胞にとっては「敵」を発見した時に味方の免疫細胞に応援を求める信号物質であるが、キラーT細胞にとっては「敵」を自分の細胞ごと攻撃する攻撃物質でもある。その攻撃の抑制が効かず、ウィルスに侵されていない健全な細胞まで攻撃してしまうことで一気に重症化する。攻撃の停止命令を出すのはTreg細胞なのでTreg細胞の働きに問題があるともいえるが、そもそもT細胞群は胸腺という器官で自己免疫を防ぐスクリーニングを受けている(健全な自分自身の細胞を攻撃するものはアポトーシス(自死)させる)ので、原則的には健康な自身の細胞を攻撃することはない。

 肺でサイトカインストームが多発すると健全な肺胞細胞が多く失われることで酸素=二酸化炭素の交換ができなくなり、酸素吸入どころでなく人工呼吸器が必要になる。急速に起こると本人が気が付いた時には息ができなくなっていて助けも呼べずに死亡してしまうかもしれない。7月4日放送のNHKスペシャル「人体VSウィルス」では、ドイツの死亡患者を調べたところ肺の毛細血管の血栓が原因で死亡した例が約3割見つかったと紹介していた。
 ウィルスが血液に流れ出して心臓や腎臓などに転移したとき、それを見つけたキラーT細胞がサイトカインストームを起こすことで健全な細胞が破壊されて心停止に至ることもある。中国で道を歩いていた人が突然ばったり倒れて動かなるという動画がいくつか出回ったそうだが、まさにそういう事が起きると考えられる。ウィルスは血管の内皮細胞に入り込む性質があるらしく、欧米では手や足の指などが赤く腫れあがる血栓症が多く報告されている。これもサイトカインストームによるものと考えられる。心臓を動かす血管などで血栓が起きればごく短時間で急激な心停止を起こすことも起こり得るのではないかと考えられる。
(上述のNHKスペシャルでは、サイトカインストームが起こると食細胞が大量死することで血栓を生じるとつじつまの合わない説明していたが、通常は血管に開いた穴は血小板でふさぐものなので、なぜドイツではキラーT細胞によるサイトカインストームが起きた箇所でサイトカインを出さない食細胞の大量死が見つかったのか、疑問が残る)
 こういう激しいサイトカインストームを繰り返し引き起こす病気はこれまであまり知られていなかったので、これがこのウィルスの恐ろしい点だ。何が恐ろしいかと言って、どういう条件の人がサイトカインストームを起こすかが分かっていない点だ。無症状や軽症の若い人でも突然襲われる。

  キラーT細胞にウィルスが感染することでサイトカインストームが起きるという仮説も見たことがあるが、免疫細胞がウィルスに感染するというアイディアは他に聞いたことがなく、しかも一つ二つのキラーT細胞が感染するだけでは1日で急変するような事態は起こりえないので、筆者は否定的に見ている。 日本でも5月に自宅隔離中の無症/軽症状感染者が、朝は元気だったのに家族が夕方帰って来た時には亡くなっていたという「急変」が東京と埼玉であった。

サイトカインストームに関する筆者の仮説
 サイトカインストームがどんな条件で起きるのか、どんな人が起こしやすいのか、はまったく分かっていないが、筆者はサイトカインストームが自己免疫の一種ではないかと考えている。
 欧米では1990年代から、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、クローン病などの自己免疫疾患が急速に増えてきているが、日本やアジアでは関節リウマチ以外にはあまり知られていない。アレルギー同様先進国に限って増加傾向があるものではある。自己免疫疾患がイスラエルを含む西ヨーロッパと北米で増えている原因はアレルギー以上に分かっていない。自己免疫疾患もキラーT細胞が健全な自分自身の細胞を攻撃するものなので、欧米の人々の方がサイトカインストームが多く発生していて特に西ヨーロッパで死者が多いのではないかと考えている。
 先述したようにT細胞は胸腺でスクリーニングを受けるが、この胸腺という器官は十代では十分に機能するものの加齢と共に縮小し、二十代前半で消失してしまう。二十代半ば以降であれば誰でも自己免疫性のある(自分自身の細胞を攻撃しうる)T細胞を持つようになるが、逆に十代前半では自己免疫疾患を持っていない限り自己免疫性のあるT細胞を持たないのでサイトカインストームが起きないのではないか、と筆者は考えている。 事実、欧米では十代二十代の若者に足指の血栓が多数報告され川崎病的な症状が出て日本への問合せが多かったが、国内では血栓の報告例はほとんどない。

■SARS-Cov2がT細胞を攻撃?
 「SARS-Cov2がTリンパ球への攻撃性をもっていて、損傷されたT細胞がサイトカインストームを引き起こす」という仮説もある。(北海道大野記念病院(札幌市)札幌高機能放射線治療センターの岸和史氏)SARS-Cov2がT細胞をどのように攻撃するのか、それによってT細胞がどういう状態になるのかを明らかにしないと検証することは難しいだろう。


十代が重症化しないことを説明するアシュバント仮説
 B型肝炎、ロタ、肺炎球菌、ポリオ、BCG、水ぼうそう、おたふく風邪など小児は生後1か月~3歳ぐらいに様々なワクチンを接種するが、それぞれのワクチンにはアシュバントと呼ばれる 抗原抗体反応を活性化させる非特異的免疫賦活剤が含まれている。これらはB細胞が抗体を産生するのと別に肥満細胞、好酸球、好塩基球、ナチュラルキラー細胞、食細胞(マクロファージ、好中球、樹状細胞)といった自然免疫系を活性化するため、十代(特に前半まで)の子どもが重症化しないのではないか、という仮説がある。アシュバントが数年~十年程度自然免疫系を活性化するというのはあり得る話かもしれないと筆者は考えている。これは日本だけでなく後進国を含めた世界中に当てはまる。

■SARS-Cov2は自然免疫をすり抜ける?
 東大医学研究所・佐藤准教授によればSARS-Cov2の持つ遺伝子ORF3bが侵入した細胞が出す警報信号物質インターフェロンの産生をを10分の1に抑制してしまうので、食細胞、ナチュラルキラー細胞などの自然免疫系の監視の目をすり抜けるという(前述の7月4日NHKスペシャル)。
 もしそうであるなら多くの無症状患者が2週間程度で回復する例を説明できない。現在の知見では抗体が産生されるのは感染してから2週間後以降で、それも急速に量産されるのでなく、抗体の量は漸増していってようやく4週間後ぐらいにピークになる。したがって2週間で陰性化する多くの場合は自然免疫系と獲得免疫系のキラーT細胞の働きによると考えられる。キラーT細胞は侵入された自身の細胞を攻撃するので増殖し血液中に拡散しているウィルスを退治できるのは自然免疫系以外にないからである。(NHKの取材班の科学レベルが知れているというだけのことだが)
 またアシュバント仮説を否定できるのかどうかはまだ判断できない。
 この佐藤氏の解説が正しいとしてもウィルスの遺伝子ORF3bが侵入細胞の中で常に起動しているのかどうか、オンオフを確認することが必要になるだろう。

SARS-Cov2は侵入細胞に抗原を提示させない?
 前述のNHKスペシャルではそのような説明があったが、受け入れがたい。どこの誰がどう報告したの一言の説明もなかった。もしそうなら食細胞やキラーT細胞が侵入した細胞を見つけることができず、したがって破壊することができない。侵入された細胞から何千ものウィルスが生産されてそれが血液を介さず同じ器官に広がっていくので、抗体の生産量がピークになる感染4週間後には肺や心臓、小腸や血管はすでにボロボロになってしまっているだろう。抗体が攻撃できるのは血液中のウィルスのみで、侵入された細胞を攻撃できない。侵入された細胞を破壊しない限りウィルスの増殖を止められない。そうなっては免疫系の敗北=死という結果になるだけだ。番組ではB細胞による抗体でウィルスは消滅しました。めでたしめでたし、となっていた。抗体だけでは永遠にウィルスをなくすことはできない。NHKの科学班はバカなのか?


5.安全で有効なワクチンは実現可能か?
 新型コロナウィルスSARS-Cov2はSARSと同様安全なワクチンが困難なウィルスかもしれない。
ウィルス表面のスパイクたんぱく質の断片であれ、RNAの断片であれ、ウィルスの断片を投与するとそれに対する抗体が何種類もできる。断片を抗原として提示された体内の複数のB細胞がそれぞれ作り出すので1種類に限定することはできない。たんぱく質でできた抗体はうまいやつはウィルスのスパイクたんぱく質を包み込んでACE2レセプターとの結合をできなくしてくれる。これは中和反応と呼ばれ、抗体としてウィルス防御に成功する。しかし、複数種類できる抗体の中にはADE(抗体依存性感染増強)の反応をしてしまうものがある。これはウィルスをわざわざ自分自身の(肺胞などの)細胞に侵入させる仲介役をしてしまう。こういう抗体ができるのを防ぐワクチンが作れるかどうかが1番目の障壁となる。10種類の抗体の1つでもADEを示せば、ワクチンは「安全」ではなくなる。わざわざウィルスに感染させるようなものは「ワクチン」とは呼べない。このADEが理由で新型コロナウィルスと兄弟関係にあるSARSウィルスに対しては十数年の研究開発機関で「安全な」ワクチンは開発できなかったと香港大学が報告している。

 もう一つの障壁は作られる抗体の残存期間である。一度作られた抗体がすぐに消えてしまうのでは「有効な」ワクチンとは言えない。
6月18日英医学誌『Nature Medicine』に投稿された中国・重慶医科大学などの研究チームによる論文によると、有症状患者37人無症状患者37人について中和抗体IgGを調べたところ、80%の感染者でIgGが検出されたが、退院後2か月後の時点で有症状患者の96.8%、無症状患者の93.3%で抗体が減少していて、減少割合は半数で7割を超えていたという。中和抗体だけが抗体の全てではないが、抗体の有効期間が期待よりずっと短い可能性(2,3か月)があるということになる。(コロナ抗体「2~3か月で激減」衝撃データ に紹介記事)
 Nature Medicineの概要では「こうなると、ある時点で抗体を持っていたとしても『免疫パスポート』としては使えないのではないか」と注釈している。
 抗体が2,3か月で消失してしまうなら、スウェーデンが進めている『集団免疫』戦略は意味がなくなる。いくら待っても国民の6,7割が抗体を持つようにはならないことになる

 ちなみにインフルエンザワクチンの有効期間は約4か月とされている。だから流行期の前の11月か12月に接種すればいいが、毎年受ける必要がある。これが仮に有効期間2か月で子どもと高齢者だけでなく国民の多くに受けさせるとなると、医療機関は予防接種だけでパンクしてしまうだろう。それでは「有効な」ワクチンとは言えなくなってしまう。


6.後遺症の問題
 後遺症についてはまだ十分なサーベイがされていないため確定的なことは言えないが、新型コロナウィルスがインフルエンザと大きく異なる点が後遺症だ。
 記事「若者でも続くコロナ後遺症 倦怠感や頭痛」にもあるように、十代二十代の若者が陰性がでて40日たっても倦怠感や頭痛に悩まされ学校や仕事に満足に行くことができない症例があるという。(国の施策では新型コロナウィルスの治療は無料だが、いったん「陰性」が出た後は有料になるという)

 これの説明は型肺胞上皮細胞の障害で説明できるようだ。解剖学者の屋代隆氏(自治医科大学名誉教授/那須看護専門学校学校長/帝京平成大学客員教授)によると、SARS-Cov2の標的は①肺胞のⅡ型肺胞上皮細胞②小腸の吸収上皮細胞③鼻粘膜の杯細胞とのこと。(③はしばしば嗅覚障害、味覚障害といった初期症状から理解できるが、②下痢などの消化器系症状は初期症状としてはあまり聞かない。ウィルスを食品や水と共に経口摂取する例そのものが少ないためと考えられる。)氏によるとⅡ型肺胞上皮細胞は肺胞内腔面の90%を占めるⅠ型肺胞上皮細胞のバックアップで、Ⅰ型肺胞上皮細胞が損傷した時Ⅰ型肺胞上皮細胞に分化するものであり、また、肺胞表面にあるⅠ型細胞の表面に脂質膜を形成し表面張力を保持する肺サーファクタントを分泌する働きがあるとのこと。しかし、Ⅱ型肺胞上皮細胞がSARS-Cov2で障害されると肺サーファクタントを分泌できなくなり、肺胞を十分に膨らませることができなくなる。つまり酸素を十分に取り入れることができなくなる。しかもⅡ型肺胞上皮細胞の再生速度は通常で1日に1%程度と遅いため、重症化してⅡ型肺胞上皮細胞が多く損傷した場合、回復にはかなりの日数がかかってしまうらしい。40日たっても60日たっても学校や仕事に戻れないということはそういうことのようだ。

 なお屋代氏によると、ARDS急性呼吸窮迫症候群はサイトカインストームでなくても起こるとのこと。SARS-CoV2によりⅡ型細胞が選択的に障害されると、Ⅱ型細胞のもう1つの役割である肺サーファクタントの分泌も当然、抑制される。肺胞表面の肺サーファクタントが減少すると表面張力が低下、肺胞が拡張しにくくなりガス交換能の低下を招く原因となってしまう。SARS-CoV2で息苦しい症状が続いたり、呼吸不全に陥ったりする原因と考えられる。
 ARDSはⅡ型細胞の大量の障害による肺サーファクタントの欠乏でも起こるし、キラーT細胞によるサイトカインストームによる肺毛細血管の血栓でも起こりうる、というところなのだろう。


7.西ヨーロッパで感染者数、死者数が多い理由
 中山教授は日本が死亡率が低い原因をファクターXとしていたが、設問が間違っている。世界の中で西ヨーロッパが高いだけだ。西ヨーロッパを除くと世界平均の死亡率は5%をずっと下回る。日本は5%超とアジアの中では際立って高く、西ヨーロッパを除く世界でも高い方だ。その理由は高齢者の一般病院での院内感染で説明できる。(中国の感染者数、死者数は信用ならないので筆者は考慮しない)
 ➡7月6日追記参照

 なぜ西ヨーロッパの国々であれほど感染が拡大し、死亡率が高くなったのかははっきりとは分からない。
感染者が数万~二十数万人と大きく拡大したのは生活習慣によるものが大きいと思われる。ハグやキスする習慣、家の中に土足で上がる習慣などだ(靴の裏についたウィルスを持ち込む)。マスクをする習慣もなくソーシャルディスタンスだけが意識されたが、換気については意識されなかったようだ。感染拡大を抑え込めるようになったのはマスクが行き亘ってからかもしれない。しかし、死亡率2.5%のルクセンブルクや東欧諸国でも生活習慣はほぼ同じなので生活習慣だけではないだろう。欧州全体を見渡して1日千人以上の感染者を出した国はイタリア、スペイン、フランス、イギリス、ドイツ、スイス、オランダ、ベルギー、スウェーデンだけである。少なくともイタリアからドイツ、オランダまでは外国人が密に暮らすスラム街があるためと考えられる。(ドイツでは5月の経済再開後も何度か食肉工場でクラスターが発生したが、それらも東欧からの出稼ぎ者が密に暮らす寮の存在が指摘されている)
 また死亡率が10%を超したのはイタリア、スペイン、フランス、イギリス、ベルギー、オランダだけだが、いずれも高齢者介護施設入所者が多く犠牲になっている点が共通している。これは遺伝とかBCGワクチンとかは関係ない介護施設が医療から切り離されていたシステム上の問題に起因している。これらの国の死者数の4割から6割は介護施設の高齢者で説明されている。
 (日本では介護施設は医療から切り離されていなかったため被害は少なかったが、一般病棟に入院中の高齢者が院内感染で亡くなっている)

 米国で感染者数が広がったのも外国人労働者が多く暮らすスラム街で説明できるかもしれない。黒人の死亡率は白人の2.5倍に達するらしい。
しかし、米国には介護施設の医療連携のシステム問題がなかったためか、死亡率は日本と同程度の5%ほどだった。(最近は感染者が急増していて死亡率が4%台まで下がっている)5月半ば以降ロックダウンを解除して経済再開したが、6月に入ってBLMに関するデモが起こるようになってから逆に感染者が増え始めた。特に6月後半からはそれまで感染が抑制できていたフロリダ、テキサス、アリゾナ等の州で感染が急拡大してしまっている。これを第二波と呼ぶ人がいるが、そもそも第一波が収束していなかったのでそう呼ぶのはおかしいだろう。
 米国には欧州と異なりマスクを拒否する無知蒙昧な白人が一定数いることも社会的な問題だろう。

■抗体を使った特効薬はあり得るか?
 ADE(抗体依存性感染増強)を引き起こさない安全で強い中和能力を持つ抗体だけを取り出して培養するという事は可能だが、非常に時間とコストがかかる。抗体はたんぱく質なのだから工業的に作れるのではないかというと、可能かもしれないが今の人類の科学力では不可能に近い。タンパク質は大量のアミノ酸の集合で、その複雑な3次元形状そのものが非常に重要であり大、量のアミノ酸の組み立て順序に大きく依存するからだ。
 ではその抗体を作り出した遺伝子情報そのものを取り出して大腸菌などに移植し大量生産させるのはどうか?原理的には可能だが、その遺伝子を同定するのに非常に多くの時間を要するだろう。iPSなどの体細胞由来幹細胞に作らせることも原理的には可能だが、時間とコストがかかりすぎる。遺伝子情報が取り出せたらそれを無害なウィルスに組み込んで、そのウィルスをリンパ液に送り込んでB細胞白血球に感染させるのが最も早いかもしれない。
 抗体を大量生産してそれを薬として使うなどということは人類がかつて経験したことのないことなので、できたとしても大変高価な薬でしかないだろう。

8.新型コロナウィルスはインフルエンザに比べてはるかに脅威なのか?
 ウィルスに対するワクチンや特効薬がないことがインフルエンザと違う点だが、全人口に対する致死率はインフルエンザと大きく違わない0.3%程度に過ぎないという指摘もある。致死率そのものは当分確定しないが、このオーダーだとしたらそこまで大騒ぎするほどのものではないかもしれない。
 実際、米国でのインフルエンザの感染者数は、多い年で5000万~1億人と推定されている。したがって死者数は15万~30万人ぐらいとなる。新型コロナウィルスの死者数は約4か月で13万人なので3倍しても年間で40万人程度だからインフルエンザと大きく異なるわけではない
 日本でのインフルエンザ感染者数は厚労省によると例年1000万人程度で死者数は1万人程度らしい(超過死亡数による推定値)。一方新型コロナウィルスは3月からの4か月で973人(6月30日時点)であり、3倍しても国内の死者は年間3000人程度だ。これはインフルエンザの死者よりも少ない。ただしこれは経済を1か月半停止させて感染者数を抑えた結果なので、外出自粛せず経済を丸々回転させてどうなるかは分からない。
 日本は新型コロナウィルスを無視して経済を通常運転させるようなことはとてもじゃないができそうにない。(国民皆保険なので病気だと思えばだれもが医者にかかろうとする。そうすると検査して入院し、治療しなければならなくなり、医療施設がパンクしてしまう)しかし新型ウィルスを無視する方向に向かっているのはブラジルやインドであり、あるいは米国もそうなるかもしれない。数百~数千万人という失業者やそれに伴う経済死者に見合うほど脅威な病であるかというと、致死率が1%より十分小さいなら、そうとは言えないと筆者は考える。ブラジルの大統領はキチガイ扱いされているが、これまでの死者数で冷静に考えるとそうとも言えないのではないか?


地域、民族的な死亡率の相違
(7月6日追記)
 7月5日時点のWorldometerの統計データから人口100万人当たりの死者数(Death/1M pop)のトップ25を見ると上位は西ヨーロッパになり、次いで北米、中南米となる。西ヨーロッパの国名にピンク色、北米、中南米の克明に薄黄色を塗っている。一般的な死亡率は感染者数に対する死者数なのでDeath/TotalCasesの項である。
 再下段に比較のために日本を並べた。しかし、大きく違うのは日本だけではない。
100万人当たり死者数の上位25の国.png

 次表は欧州を西、東、北に分け、北米、中米、南米、東アジア、東南アジア、オセアニア、南アジア、西アジアといった地域ごとに集計したもの。違いは歴然としている。ロシアは多くの地域、民族にまたがるので除いた。中国は死者の統計が信用できないので除いた。
 7月5日時点の日本ファクターXの正しい設問は「なぜ日本が西ヨーロッパより低いのか?」でなく、なぜ西ヨーロッパは東ヨーロッパ、北ヨーロッパより高いのか?であり、西ヨーロッパ、北米、中南米とそれ以外の地域の相違を説明するファクターXは何か?ということになる。
地域✖の死亡率の比較.png
 中南米は遺伝的にはインディアンの子孫にスペインポルトガル系が混血したので、一見西欧の民族が遺伝的に弱いようにも見える。
しかし民族的なもの遺伝的なものだけで説明できないことは確実だ。西欧と東欧、北欧はアジアと比べて民族的・遺伝的相違はそこまで大きくないので、相違を説明できない。また、オセアニアの大半の人口を占めるオーストラリア、ニュージーランドは確実に西欧系の人種だが、数字は低くとどまる。人口密度が低いからといっても、都市部に関しては北欧に比べて一桁低いとは言えない。
 100万人当たり死者数を個別に見ると例外もある。西欧の中ではリヒテンシュタイン26.2、ギリシャ18.4などは民族・地域では説明できない。南米の中でもウルグアイ8.0、パラグアイ2.8のように少ない国もある。遺伝的なもの、地域的なものだけでなく、スラム街の有無、外国との人的交流の多さ、国境のシャットアウトの早さ、国の統制力も影響しているだろう。

有効な治療薬発見か?
(7月10日追記)
 東大病院・森村尚登氏らの研究グループの発表によると、ナファモスタット(商品名フサン)とファビピラビル(商品名アビガン)の2薬併用でICU患者11例の8割(9例)がICU退室まで改善したという。(2剤併用でコロナ重症例の8割がICU退室
海外報告ではICU患者の死亡率は30%~50%と言われるので、これこそ劇的な成果と言えるものではないだろうか?(欧米のウィルスが日本国内のものと毒性が大きく異なる、あるいは日本国内では死亡率は遺伝的な要因などでそこまで高くない、といったことが事実として確認されない限り)
 同研究グループによると「ナファモスタットは上皮細胞へのウイルス侵入を直接標的とすることに加えて、血管内凝固障害の抑制を介して効果を発揮している可能性がある」とのことである。
 ナファモスタットはダイヤモンド・プリンセス号の患者の治療で有効性が認められてから期待されてきたが、ようやく数字として成果が示された。 ファビピラビル(商品名アビガン)は残念ながら中等症患者、軽症者を有意に改善するという治験が得られていなかったが、ナファモスタットとファビピラビルの併用効果を検討する特定臨床研究は、今年5月に東大病院をはじめ国内6施設で開始され、5月末時点で8施設が参加して行われているという。どちらも日本国内では衣鉢された薬である。
 有効な治療薬(治療法)が見つかっていなかったSARS-Cov2に対して初めての朗報といえ、今後に期待される。

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