人体に無害な222nm紫外線 良いニュース?

 新型コロナウィルスに関して希望が持てるニュースが一つとしてない中、これはというものがあったので紹介する。
最初見つけた時は非常に良いニュースだと思ったが、よくよく考えてみるとそれほど甘い話ではないかもしれないと少し肩を落とした。
しかし、人類が新型コロナウィルスを克服する可能性がないわけではない。
日経XTECH6月15日の記事「数分の照射で新型コロナを不活化、人に無害な222nm紫外線が実用化へ」がその「希望の持てる」ニュースだ。
4月ごろ「わずか2分半ほどで(マスクに付着した)ウィルスが消失した」とコロンビア大学が発表しかけてやめたもののようだ。なぜ公表しなかったのか?利害関係の問題か?パテントの問題か?実験の詳細が分からず、当時の筆者の反応は<紫外線がウィルスに有効なのは分かっている話で、それが実用的かどうかだ>というものだった。

 もともと紫外線は人体に有害な光(放射線)である。波長260nmをピークとした前後の波長領域で殺菌・殺ウィルス能力が高いが人間にも皮膚がん、結膜炎、白内障などの害がある。医療現場では254nmの波長のものを消毒用として用いてきた。ところが222nmの波長だと殺菌・殺ウィルス能力があるものの人間(多分動物全般、ただし植物は不明)が皮膚がんになったり白内障になるような害がなくなるという。筆者が調べた限りでは神戸大学医学研究所の3月の報告がある。「皮膚がんなどの発症なし 222nm紫外線(UV-C)繰り返し照射の安全性を世界で初めて実証 -医療分野や日常での殺菌・消毒の用途拡大に期待-」(元論文「Long‐term Effects of 222‐nm ultraviolet radiation C Sterilizing Lamps on Mice Susceptible to Ultraviolet Radiation」 (この研究は開発元のウシオ電機の委託によるらしい。7月8日オンライン公開)

安全性の根拠を元論文で確かめる
 安全性に関する研究報告がこれしかないとすると、正直「完全に安全です」と言えるかどうかは分からない。実験には遺伝子操作で通常の1万倍皮膚がんにかかりやすい系統のノックアウトマウスを用いて通常の紫外線と222nmの紫外線を繰り返し照射し、従来の254nmの紫外線では皮膚がんや白内障が発生したものの、222nm紫外線では炎症もなく(炎症性ケモカインががんの因子)皮膚がんも白内障もおきなかったという。
 論文中の説明にあるように、『UV誘発皮膚腫瘍の主な原因の1つは、主にシクロブタンピリミジン二量体(CPD)とピリミジン(6-4)ピリミドン光生成物(6-4 PP)からなる細胞DNAのジピリミジン部位で共有結合した二量体が形成されること。ジピリミジン光産物は、実際には本質的に脱アミノ化されたシトシン含有二量体病変であり、修復されないと皮膚癌につながる変異が起こりやすいDNA病変』(前出元論文のIntroduction より)であるから、修復遺伝子に異常のある人は皮膚がんになることは避けられない。(もっともそういう人は太陽光の下では活動できないから室内でもそれなりの防御をしていることが前提だから問題ではないのかもしれない)がんにかかりやすい家系の人は、遺伝子異常を修復する遺伝子に異常があるため、そういう人は絶対安全とは言えない。今回の検証実験に用いたノックアウトマウスは光応答に関する特殊な修復遺伝子に異常のあるマウスであって、一般的な修復遺伝子に異常があるマウスではなかった。

 論文では「222nmの照射強度10kJm-2が殺菌線量の100倍と推定されるが(参考文献8参照と直接説明せず)紅斑も耳の腫れも発生しなかった」という記述があるが、殺菌・殺ウィルス能力は254nmに比べて落ちるので100倍という部分はきちんとデータを示すべきだった。本実験では週3回x10週繰り返し照射をしたのは照射強度0.5kJm-2と1kJm-2と記述しているので、間接的に殺菌線量より十分大きい線量で実験していることを示している。(放出ウィンドウから300 mmで1 mW cm-2と違う単位でも説明している)実験が新型コロナウィルスの消毒効果がある照射強度・照射時間だったのかは論文からは直接分からない
 ちなみに次図は岩崎電気(照明屋さん)のHPからのDNAの吸収曲線、殺菌作用の分光特性。これらから222nmは254nmの殺菌強度の15%程度と想定できる。
DNAの吸収特性+殺菌作用の分校特性.jpg
 また、次表に示すように紫外線が菌やウィルスを消滅させる照射線量は菌やウィルスの種類によって結構な差がある。(いずれも岩崎電気のHPより抜粋)
微生物を死滅させるため伊必要な紫外線照射線量1.png
微生物を死滅させるため伊必要な紫外線照射線量2.png
 したがって「殺菌線量の100倍と推定される」などと言われても何が基準の「100倍」なのか不明で、新型コロナウィルスにも大丈夫と高をくくることはできない。新型コロナウィルスに使いたいならSARS-Covー2ウィルスの99.9%不活性化照射線量を示さないといけない
 ※ただしウシオ電機は皮膚の殺菌用医療器具を開発している上で委託研究したのであって、新型コロナウィルス対策用の照明を開発していたわけではない。ウシオ電機の開発品をコロンビア大学の研究室が新型コロナウィルス対策として取り上げたのが経緯。

 またノックアウトマウスの場合15週間後までに発症することが分かっているので、上の検証実験ではその期間までは観察しているが、より長い照射実験をしてより長い予後まで観察しても大丈夫なのかどうかは分からない。

 また筆者が納得できないのが、「222nmの紫外線はヒトの皮膚表面で止まり中の層まで透過しないため皮膚がんにならない」という神戸大学の研究チームの説明だ。皮膚の一番外側の細胞は核のDNAをやられるかもしれないが、遺伝子修復遺伝子が働くから皮膚がんになりませんでした、と言っているのなら、紫外線が透過する距離の問題ではないはずだ。確かに細胞の大きさは10㎛程度以上であるのに対してウィルスの大きさは1μm程度以下なので透過距離は問題だが、皮膚の一番外表面上の細胞だってたまたま外側のきわに核(DNA)が寄っていることだってある。「222nm紫外線は(〇〇のある層は)0.5μm以上透過しない」など物質別の具体的な透過距離限界(飛程)を示さないと納得できない。

 正直な話、完全な「安全」という概念を追求すると<1μSv(マイクロシーベルト)/hrの環境放射線が安全なのか否なのか>という一般の人々が混乱した問題と同じ話に至ってしまうことになる。筆者は1μシーベルトに関しては「安全」と言い切るが、それは自然界の放射線の量を知っているからだ。世の中リスクがゼロという事はあり得ない。太陽光には一定の有害紫外線が含まれるし、植物にはK40、遺伝子を構成するアミノ酸にもC14という一定の放射性同位元素が含まれる。生命は一定の放射線量の環境下で進化してきて、遺伝子修復遺伝子もまたそれに合わせて進化しているからだ。そもそも自然放射線を食べ物として取り入れていて、人体は自然放射線を含めて構成されているだけの話だ。そもそもリスクが完全にゼロという空間は地球上には存在ない。
 しかし、<長時間の紫外線照射(被ばく)>というと、1μSv/hrと似たような議論を呼んでしまうかもしれない。

 きちんとした検証はもう少し必要になるが、結局、FDA(米国食品医薬品局)が医療器具として認可するかどうかが第一関門で、その許可条件(照射線量=照射強度x時間)より厳しい(安全側の)条件なら照明などの一般用途に使用してもよいことになるのではないだろうか。(FDAは食品医薬品だけでなく、動物用人工心肺装置などの医療機器にも認可を出している)


実用化されたら世の中が劇的に改善されるか?
 とりあえず、222nmの紫外線が人体には安全だとしたとき、何か劇的に改善されうるのだろうか?
病院、オフィス、学校、駅、空港、電車、バス、飛行機といった公共空間を紫外線でウィルス消毒することが可能だろうか?
そうなれば、世の中はずいぶん安全になるのだが?

 原理的には可能だろう。しかし、強力な紫外線を天井などから照射する装置を取り付けるのにはかなり時間がかかると予想される。
 恐ろしく強力である必要がある。上の検証実験はウシオ電機製のクリプトンクロリド(Kr-Cl)エキシマランプ(222nm前後2nm以外をカットするフィルターを付けたもの)の照射窓から30cm離して殺菌線量の5~10倍相当としている。学校やオフィスの天井は3mあり、ウィルスは飛沫が大きい場合は床に落ちるので、床まで届く必要がある。照射強度は距離の二乗に反比例するから3mまで届くには(強度が100分の1になるので)少なくとも10倍の強度の光源(ランプ)が必要になる。オフィスビルのロビーや空港ロビーなどでは天井は5m以上なので30倍の強度が必要になる。
 開発元のウシオ電機がそういう強度のランプを開発できるかどうかだ。

 冒頭のXTechの記事はウシオ電機は21年発売を前倒しして今年9月に量産開始の準備をしているというが、これはまず皮膚の殺菌目的の医療器具の日程と考えられる。光源強度が10倍、30倍のものは開発に数年かかってしまうだろう。そうであれば同じユニットを10個~30個並べるやり方なら(環境には優しくないかもしれないが)2,3か月でできるかもしれない。そもそもウシオ電機は照明屋さんではないので、オフィスや学校向けの照明器具の開発はパナソニックなどと共同開発し、販売は照明屋さんに任せた方がいいかもしれない。人の出入りがある場所では1時間照射で完全消毒(ウィルスは菌ではないので殺菌とはいわない)できる光源よりは、1時間ごとに5分照射で完全消毒できる方がいい。それがついている間はもともとの照明の照度を落とす必要もある。そういう人とウィルスの動きを想定したタイマー設定で作動する消毒照明の開発になる。パナソニックなら大量生産のための工場投資など(やる気になれば)数千億円単位でドンドコやってくれるだろう。

 コストはそれなりにかかるだろうが、ランプなのでLEDほど量産によるコストダウンは見込めない。どれだけ需要が見込めるかは価格による。
大きな総合病院は待合ロビーに500万円かけても消毒照明が欲しいかもしれない。「うちの病院は安全ですから今まで通りご来院ください」と宣伝できる。また、院内感染を出して苦しんだ病院も病室などに消毒照明が欲しいだろう。ひょっとすると世界中から引く手あまたになるかもしれない。
 学校の教室1つ分で100万円だったら売ってくれという学校はないかもしれない。しかし世界中の金持ちの企業ならオフィス用にあるいは工場用に買うかもしれない。最初の半年はその程度の普及で、半年後には1.5倍強力なユニットができて価格が下がるかもしれない。1年後には2倍の強度のユニットができて価格が当初の半分に下がるかもしれない。


 おおよそこういう調子だとしたら、普及には結構時間がかかることになるだろう
それでもこれは悪いニュースではない。ワクチンに関してはこれまで書いてきているようにADE抗体誘導型感染増強が起こったり、抗体そのものが陰性化してから2か月後に急減してしまうという根本的な問題があり、困難な情勢だ。しかもウィルスは遺伝子型の変異を続けている。感染力や毒性が変化しているのかどうかはいまだに不明だが、特効薬が開発できても外れてしまう可能性も残る。
 このウィルスがどう変異しても紫外線がウィルス全般に有効なのは揺るがないので、普及しさえすれば一息つけることは確かだ。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント