ウィルスは弱毒化しているが、甘く見てはいけない

1.気温による弱毒化
 筆者は2月3月の段階では新型コロナウィルスは最高気温が25℃ぐらいになる5月後半からは感染力が弱まり弱毒化すると予想していた。
湿度が高まると空気中に漂う時間が減り感染力が低下するのと、高温期になるとウィルスを包むたんぱく質が熱で変質するため遺伝子複製時にRNAが全てほどけなくなり完全な複製が作れず毒性が弱まると予想したためだ。感染力に関しては完全に予想は外れた。高温低湿度のサウジアラビア、エジプト、カタールなどの中東でも高温高湿度のインド、パキスタン、バングラディシュといった南アジアでも感染爆発が続いたからだ。
 しかし高温期に弱毒化するという予想は今のところ正しそうだ。

次図は日本の日々の感染者発生数、退院者数、死亡数(右軸)の推移図。
6月23日ごろから感染者数は爆発的に増加しているが、死者数はほとんど増加していない。第一波では感染者数のピークと死亡数のピークでは12日程の遅れがあったが、(他国でも1週間から15日程度のずれがある)1か月以上遅れているのでまだ死亡数が増加していない、とは考えられない。
日本の推移.png
 感染すると平均的には1週間で症状が出て、重症化する場合その後2週間ほどで重症化し死亡するか、1か月かそれ以上に及ぶ長い闘病になる、ICUに入ったものの死亡率は5割程度、というのが第一波の平均的な進行だった。しかし今回は検査数を増やして無症状者を多く見つけているので、有症状者が少なく、重症者が発見されることもさらに少ないため、死者はほとんど出ていないようだ。
 次図は低温気に入っているオーストラリアの第二波を示したもの。特に死亡率が上がっているようには見えない。たんぱく質は高温期から低温気になって元に戻るわけではないので、南半球で毒性が強まることがなくてもおかしくはない
オーストラリアの推移.png

 欧米では米国の第二波が分かりやすい。6月15日ぐらいから感染者数が急増し、第一波のピーク4万5千人/日を大きく上回る7万8千人/日に達したが、死者は第一波とほとんど変わりがない状況が続いている。死亡率が下がるという事は重症化しにくくなっていることでもあり、無症状、軽症、中等症、重症の比率が変わってきているはずなのだが、そこまで細かいデータはどの国についても公開されていない(国内でもない)のではっきりとは言えない。急増したのがニューヨーク、ニュージャージー、イリノイといった北部でなく、カルフォルニア、テキサス、フロリダ、アリゾナといった高温期に入った南部地域であることも死亡率が改善した原因かもしれない。
米国の推移.png
 欧州ではあまり顕著な第二波が出ていないので世界的に弱毒化しているといえるほどのデータはない。
次はルクセンブルクとチェコの例。6月半ばに始まった感染者増加に対して死亡数の増加は見られない。
ルクセンブルクの推移.png
チェコの推移.png
 次のスウェーデンは第二波ではないが、6月初めからの感染者数増加に対して死亡数は増加しないどころか減少し続けている。
スウェーデンの推移.png
 COVID-19に対する医療技術が進歩したため死亡率が低下したという事はできない。6月以降世界的に重症患者に対する画期的な治療薬が見つかって死亡率が劇的に下がったという報告はない。(Medical Tribune「デキサメタゾンがCOVID-19重症例に有効」はイギリスで3月から6月8日までの非盲検ランダム化比較試験の報告なので、6月以降に改善されたという話ではない)サイトカインストーム抑制効果が期待された抗IL-6受容体抗体トシリズマブの国際共同ランダム化比較試験結果もだめだった。(日経メディカル記事


 2,3月より高温化している北半球の国で弱毒化が強くは見られない国もある。筆者が分析している中で唯二の例外が、次の北マケドニアとアルバニアだ(共に旧ユーゴスラビア連邦)。死亡率が7月28日時点でそれぞれ4.8%、3.0%と周辺と特に大きな違いがないだけに医療システムの違いとも言いにくく、筆者には説明できない。これら二つの国でも6月以前と以後を比べると死亡率は下がっているには違いない。ただ、後述する周辺のボスニアヘルツェゴビナやブルガリアのような顕著な弱毒化ではない。
北マケドニアの推移.png
アルバニアの推移.png
 周辺のボスニアヘルツェゴビナやブルガリアは遅れてきた第一波の渦中にあるが、明確な弱毒化(感染者数の増加に対して死亡数が増加しない)がみられる。
ボスニアヘルツェゴビナの推移.png
ブルガリアの推移.png

 いまのところウィルスの弱毒化に関して明確な報告はない。ただ3月に比べて5月のICU退室者の死亡率は10%低くなったという報告(Medical Tribune「コロナ患者の予後が経時的に著明改善」)は関連する情報と考えられる。
今のところ《気温が高くなって弱毒化した》というのは筆者の仮説にとどまっている。


2.弱毒化したのだから経済をどんどん回せばいいのか?
 新型コロナウィルスによる疾病COVID-19がインフルエンザと大きく異なるのは非常に重い後遺症があることである。
無症状者の後遺症という報告はないが、軽症者以上ではQOL(生活の質)を大きく悪化させる後遺症が多く報告されている。
代表的なものが めまい、頭痛、息切れ、倦怠感、味覚・嗅覚異常だ。
 ブログ記事『これまでの知見の整理』、『これまでの知見の整理2』で記したように、肺の肺胞細胞のバックアップである細胞Iは再生力が低いため、一度ウィルスに破壊されると元に戻るのに数か月(60~90日かそれ以上)を要する。だから息切れ、めまいはそこから来ると考えられる。倦怠感もそこから来るものもあるだろう。
 さらに味覚・嗅覚異常は脳の嗅球の神経がウィルスに壊されて起こるものだ。脳神経細胞は基本的に再生しないので、味覚・嗅覚異常は一生治らないかもしれない。さらにこの嗅球は脳の一部分であってウィルスがさらに脳の中に入りこんで感染した場合、損傷した個所は一生元に戻らない可能性がある。もしめまいや頭痛、倦怠感がその脳の神経細胞の損傷から来るものだとすると、一生それと付き合っていかねばならないかもしれない
 そんなことは風邪やインフルエンザではあり得ないことだ。
 新型コロナウィルスを甘く見てはいけない
無症状感染者には後遺症があるのかないのかは、まだ分かっていない。
どういう人がサイトカインストームを起こすのか、どういう人が症状が出てどういう人が無症状になるのか、そこにどういう仕訳けルールがあるのか、誰も知らない。若ければ症状が出ないので大丈夫ですとは100%言い切れない。そういうウィルスだ。


3.どうすればよかったのか?これからどうすべきか?
 かといって感染者がゼロになるまで待てない、そんなことをしている間に旅館やレストラン、居酒屋が潰れてしまう、という業者の悲鳴は分かる。しかし、理想は台湾のように感染者ゼロを続けるまで自粛すべきだった。
 感染者をゼロに抑え込まずに経済を再開するにしても、換気ができないような狭い居酒屋やバー、キャバレー、スナック、カラオケルームといった業種には徹底したガイドラインを示し、違反者には営業停止できる法律を準備してから自粛解除すべきだった。酒が入れば普段はおとなしい人でも大声を出すようになり、エアコンの風邪で飛沫が拡散し、危険だ。そういう場所で営業するのはそもそもNGで、客を半分にしてもウィルス対策にはならないし、経営も成り立たない。つまり《ここでは営業できません》というガイダンスをまず示し、営業したら法的に営業停止処分にする、という対策が全国のバー、スナック、キャバレー、クラブ、居酒屋、カラオケルームなどにとられなければいけなかった、というわけだ。
筆者は構造的に危険なものを自粛解除してしまったのが問題だと考える。

 筆者は基本的には高齢者や持病もちのために経済を停止させるべきではないと考えている。しかし、このままアクセルを踏み続けても、大多数の国民は不安で飲み屋にも行きたがらないし、外食もしたがらないし、旅行もしたがらないだろう。旅行に行くにしてもバスはいやだ、電車も心配、では車で行ける範囲に、となるかもしれない。きちっと締めるべきところを締めないと誰も安心して出かけられない。それでは結局、経済を回すことにはならない

 出入り口のドア以外開口部のない部屋では換気は短時間では絶対不可能、というわけではない
 7月5日のHNK『サイエンスZERO』で取り上げられた方法がある。東京理科大学の倉淵教授(空気調和・衛生工学会副会長)の行った実験(新日本空調㈱の協力)では、ドアが一か所しかない22㎡の部屋を換気するのにドアの内側に置いた外に向きの扇風機1台では部屋全体の換気に21分を要したが、ドアの内側に部屋に向けたサーキュレータを置くことでショートサーキット(吐き出された空気の戻り)を解消すると12分で換気することができることが示された。
次の2つの写真は当該番組で放送された空調実験のスクリーンショット
排出される煙をレーザー光で可視化している様子
空調実験写真1A.jpg
部屋全体の空気の流れを天井からの視点で見ている様子
空調実験写真3B.jpg

 ただし、実験で使用した部屋には障害物(机も椅子も人)がない状態だったので、実際の店舗で同じ時間で同じ効果を期待することはできない。しかし、そういう空調の予備実験をある程度やって「こういう部屋構造・広さの場合にはこのように扇風機とサーキュレーターを〇〇分間1時間間隔で使用すること」といったガイドラインを5坪から20坪の面積ぐらいまで用意しておけば、国や自治体はもっと安全な空間を確保できるはずである
 そういう空調・換気に関するガイドラインは素人にはできないもので、国が徹底してやるべきだった。
 『三密を避けましょう』といいながら、実際にどのような換気が必要なのか現場レベルで指導できなかったのは、こういうレベルになると自治体でなく国の問題だ。厚労省で分からなくても経産省には空調の担当がいるのだから、専門家と徹底協議すべきだった。
 飛行機、新幹線、大都市圏のJR・大手私鉄の車両は空調システムが換気を伴ったものなので心配はないが、地方の鉄道やバスは換気を伴わない空調なので、どう対策すればいいのかも指導がされなければいけない。特に高校生大学生が通学に使うような電車・バスや観光バスなどは会話量が多く、十分な換気が要求されなければならない。

 もちろん、正しいガイドラインを作るために今からでも実験を重ねて、国内の危険ゾーンをなくす努力をしなければならない。正しいガイドラインができるまでは全ての危険ゾーンは営業自粛してもらい、並行して違反事業者を営業停止にできる法律を急いで制定すべきである。これが筆者の考えだ。

注)「エアゾル観戦」について
新型コロナウィルスが10μm以上の「飛沫」でなく数μmの「エアゾル」で感染するという知見は世界の260名以上の科学者が共同でWHOに意見書を送り付けてWHOも見解を変えたこともあり、広く共有されている。おじゃべりや歌声で口から吐き出された数μmの大きさのエアゾルは空気中に数10分~最大1時間程度浮遊する。したがって<狭い居酒屋で一人飛ばしで席に座る、テーブルに頭の高さの透明な仕切りのアクリルボードを置く>程度の対策で大丈夫なんてことはあり得ない完全に空気が換気できなければ感染は防げない

 6月末から国内の感染者数の増加傾向は歯止めがかからない状態だ。経済を回さなければならないことは確かだが、踏むべき手順を踏んでいないからこうなったので、筆者は一度止めてやり直すべきだと考える。
 検査数を増やしたから感染者数が増えるのは確かに当たり前で、第一波はもし無症状感染者をもっと検査していればはるかに大きい数字だったことも確かだ。しかしこのまま感染者が増加し続ければ、国民の不安は増し、結局外食や旅行などの経済は回らない。誰もが安心して仲間と歓談でき、旅行を楽しめるようにするためには正しいガイドラインを作ってそれを徹底し、違反者を営業停止にするという当然の基準を用意すべきである。やたらと割引券を配るだけなのは愚の骨頂だし、税金の無駄遣いに終わると考える。

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