スウェーデン報告の衝撃 1.優先順位の正しさ

 8月6日のMedical Tribuneに投稿されたスウェーデン・カロリンスカヤ大学病院勤務の宮川医師の記事『スウェーデン式新型コロナ対策の「真実」(前編後編)は非常に興味深く重要な記事で、<記事が役に立った>という医師が218名とすごい反響だった。Medical Tribune誌では新型コロナウィルス関連の記事で世間の関心の高いものでもこれまで100名少しが一回あったぐらいのものだ。それほどこの記事には多くの医師が注目している。カロリンスカヤ大学が疫学の世界では名門中の名門であることによるかもしれない。

 スウェーデンはロックダウンをせず経済を回し続けてきた唯一の国で、外出自粛要請もなければ休業要請もない。マスクさえ推奨していず、小中学校、保育園は通常通り開校・開園しており、高校・大学のみオンライン授業となっている。宮川医師によると「社会的距離(social distancing)を取る」「少しでも症状があれば自宅療養する」「リモートワークを推進する」と勧告されているので部分的ロックダウンといってもいい。法律で禁止したのは「50人以上の集会」と「介護施設への訪問」のみという。それ以外では国が法律で個人の行動を規制することはなかったという。
 海外からは「集団免疫獲得を目指している」と解釈されていて、5月22日にストックホルム市民の抗体保有率が7.3%にとどまっていると発表されると、だから言わんこっちゃないと海外から冷笑されていた。GDPがマイナスに転じたことを受けて「ロックダウンはしなかったが経済は救えなかった」と<失敗例>として伝えられた。しかしスウェーデンは貿易がGDPの68%を占めるため、内需だけではやっていけない経済構造だったためらしい。
 死者数、死亡率から見るとスウェーデンは確かに失敗したように見えていた。人口1000万人の国で5800人近くが死亡しており、一時は死亡率(感染者総数に対する死者の率)が14%もあり、ヨーロッパの中でもイタリア、スペイン、イギリス、ベルギーと並んで失敗例と考えられてきた。死亡率は現在では7.0%に下がっているが、百万人当たりの死者数は571人で現時点でも世界ワースト8位だ。
 しかし、感染者数は減少傾向にある。次図は感染者発生数、死者数、退院/陰性化数の筆者による推移図(値はそれぞれ5日間の移動平均、元データはWorldometerの日々のデータ)。
スウェーデンの感染拡大の推移.png
 感染者発生推移とほとんどずれないオレンジ色の死者数の推移は、<治療する間もなく亡くなった/死んだ人を調べたら感染していた>ことを示している。イタリア、スペイン、イギリスでも同じパターンが見られる。

 しかし、宮川医師によるとスウェーデンの対策と成果は海外の報道によるものと全く違うものだった
今回の記事では宮川医師の報告の概要と、氏の記事からさらに検索をかけて見つけたスウェーデンの集団免疫獲得に関連する情報とそれらに対する考察を紹介する。
筆者がスウェーデン方式が大正解だったかもしれないと考える理由がある。対策の優先順位の正しさと集団免疫の獲得の可能性だ
 記事の紹介だけでなくそれに対する検証的な考察を書くとかなり長くなってしまったので、本ブログ記事は対策の優先順位に関するものと集団免疫獲得の可能性に関するものの2回に分割した。

1.対策の優先順位の正しさ
1)死者は70歳以上の高齢者に集中
死者の9割は70歳以上の高齢者でその8割は要介護者であったという。次図はMedical Tribune誌の宮川医師の記事からの転載。
スウェーデンの死亡者年齢分布.JPG
 スウェーデンで介護施設に入居する高齢者は、認知症などの他は、複数の疾患を抱えており、生命予後は比較的短い。70歳以上の死亡者のうち要介護者、つまり介護施設に住むか自宅で訪問介護士の助けを借りている高齢者が占める割合は76%だった。

 医療施設のほとんどは公立であり、医療アクセスは日本と比べて極めて限られている。その一方で自国民はもとより、1年以上のビザを有する者、難民申請者など幅広く平等に医療が受けられる。病院数、医療スタッフの資源が限られていることから、エビデンスが確立していない治療は行わないという線引きも厳密に決められ、COVID-19重症患者のICU治療に際し、トリアージを行った。指針では、80歳以上(生物学的年齢)の患者、70歳代で1つ以上の臓器障害を有する患者、60歳代で2つ以上の臓器障害を有する患者はICU治療の適応外とした実際には80歳代でもICU治療を受けた患者は多数おり、適応の判断は個々の医療チームの判断に一任されていたらしい。海外からは批判を受けたようだが、生命予後が比較的短い高齢者に対して医療資源が十分でないことから、この指針は国民に支持されたようである。国民から支持されているという点は極めて重要だ。

 スウェーデンでは介護施設と医療の連携が不十分で、移民のパートタイマーが症状を隠して介護施設や訪問看護に持ち込んだウィルスから感染クラスターを発生して要介護者が多く亡くなっている。この介護施設と医療の連携不足はスウェーデンに特異なことでなく、イギリス、イタリア、スペイン、フランスでもまったく同じ事情だ。要介護者の30%が亡くなったという。他の西ヨーロッパ諸国とスウェーデンが異なる点は貧困の外国人労働者のスラム街といった感染拡大しやすい密集地域がなかったか小さかったことだろう。貧困の外国人労働者のスラム街が少ない/小さい点はスウェーデンは日本に似ていて、西ヨーロッパや北米とは事情が異なる。

 とはいっても超過死亡率から見た時、COVID-19による死者数はそれほど顕著なものではないようだ。次図はMedical Tribune誌の宮川医師の記事からの転載。
長歌死亡率の推移.jpg


2)小中学校・保育園は開校・開園したままで経済を平常回転させる
 一方、保育園や小中学校の運営が平常通りなのは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は子供に感染しても症状が比較的軽く、学校でクラスター(感染者集団)が発生したり、死亡したりするケースがほとんどないということ、それらに加えて子供が学校で学ぶ権利、特に家庭環境が良好でない子供たちにとって学校はセーフティーネットでもあり、閉鎖するとさまざまな弊害(母親が働きに出れないため小中学校、保育園、医療施設が機能しなくなるなど)が起こりうることに基づいている。
 また最近、学校を閉鎖しなかったスウェーデンと閉鎖したフィンランドの共同調査により、学校閉鎖は子供のSARS-CoV-2感染率に影響せず、むしろ閉鎖による悪影響とのバランスを考慮すべきとの結果が明らかになった(Covid-19 in schoolchildren - A comparison between Finland and Sweden、The Public Health Agency of Sweden 2020)という。

 小中学校や保育園を開校・開園し続けたのは非常に難しい判断だったが、良い判断だった。教育機会の損失をなくし、不要な子供のストレスを生まなかった点、高く評価される。3月の時点では先行事例はロックダウンした中国とイタリアしかなく、子供が感染しても症状が軽い、あるいはクラスターは発生しない、と言い切れる情報は正直に言って多くはなかった。しかし、正解だった。
 スウェーデンでも働く母親が経済の重要な部分(教育、介護、医療)を支えている事情は変わらない。それを止めない意味でも小中学校・保育園の開校・開園維持は重要だった。

 筆者はこれを最高の結果だと思う。亡くなったのは9割が70歳以上の生命予後の少ない高齢者である。代わりに70歳未満の若い働ける世代に対して医療資源が十分に配分されて救われたなら、文句はない。なんといっても介護施設の高齢者はたいてい基礎疾患があり、介護費、医療費がかかるのだが、その分の税金負担が軽くなった。
 そして小さい子供たちはちゃんと学校や保育園で教育を受け、その間母親が安心して仕事に出られて学校や保育園も介護施設も医療現場もきちんと回転する、というのがあるべき姿だ。スウェーデン方式こそ正解だったということだ。

 北欧は高福祉の国というイメージがあるが、実際は高齢者医療・介護にじゃぶじゃぶ公金を投入しているわけではない。医療においても若い世代、働く世代を優先しており、それを国民がきちんと理解してその指針を支持しているのがいい。それがあるべき姿だ。
そして政府は、新型コロナウィルスによる死者よりはるかに大きくなる経済停止による死者を避けた、正しい優先順位付けを行ったといえる。
それをまだウィルスの毒性が高く死亡率も高かった3月の時点から貫いたのは見事としか言いようがない。

 宮川医師によるとそもそもスウェーデンがロックダウンしなかったのは、憲法で国民の行動の自由を束縛できる条文がなかったことによるという。それは今の日本でも同じだ。日本はそれでも自粛要請をし、大半の国民は罰則がないにもかかわらずそれに従った。欧米では罰則規定がないのに国民が政府の意向に従ったことを賞賛したが、これは日本人特有の同調圧力に弱い気質によるものだった。

本当に理性的に考えた時、ウィルスの死者を減らすのと経済を完全停止させるのとどちらを選ぶべきだろうか?
 休業要請して政府や自治体が休業手当を出したり倒産回避のための資金援助をするのにどれだけの借金が必要になるのか?
 たかだか1,2か月でもその影響範囲は非常に大きく数兆円ではすまない金額になることは確かだ。
 その借金は後の世代が返済することになるが、後の世代はこの借金で何の利益が得られるというのか?
 怖い怖いと感情に流されず、本当に理性的に考えてみると、スウェーデンのようにウィルスの死者より経済の停止を避けることを選ぶべきだと筆者は考えている。
 そしてスウェーデン方式の先に第2節(次のブログ記事)で示すように集団免疫獲得の可能性が出てきた。


3)筆者の見解 でたらめな日本の優先順位
 ひるがえって日本はまるっきり逆だ。年間80兆円の予算の中で40兆円以上を高齢者医療と介護に注ぎ込んでいる。赤字国債を発行してまでも高齢者医療を減らさない。国債は外国人投資家に回る率が極めて低いからどんなに増えても心配ないという議論とは別に、本来国債は借金であり将来の国民が負担するものだ。それを将来のない高齢者の命をつなぐために使うというのは間違っている。例えば原発の廃炉費用を、原発の利益を少しも受けたことのない将来の世代が負担しなければならないような話だ。原発の廃炉・廃棄物保管費用は全て利用した世代だけで負担すべきだろう。同様に今の高齢者の医療・介護費用は今の世代が負担できるだけに絞るべきである。今の医療費40兆円の大半は今の高齢者に対するもので大きすぎ、間違っている。

 今回のコロナ禍で人々が病院に行かなくなり大半の病院が赤字に陥った。基礎疾患に対する投薬(処方)はオンラインでできるようになったため、その部分の収入減はさほどではないはずだ。赤字の最大の要因は医療点数の稼げる手術が減ったことによるという。感染防止の観点から不急の手術が先延ばしされたことによると思われる。がん以外の高度医療も専門病院以外では感染防止の観点から中断されているのが大きい。
 これを書いている今日も日本老年医学会の妙な提言があった(コロナ禍でも最期まで本人の望む高齢者医療を 学会が提言)。日本の医療関係者の多くにとって高齢者医療が飯の種なのだろうか?高齢者が毎日のように病院に出かけて待合室で長話をして帰ってくるのが一般の病院の日常だが、それがそもそも間違っている。
 ひところ病院勤務医の勤務時間の長さが問題になった。医者が少なすぎるからそうなったわけではない。自己負担分が安すぎるから高齢者が大挙して病院に押し掛け、診察時間数が長くなり、不要な投薬(処方)が増えるのだ。日本ではまだ無駄な医療が多すぎる点については室井一辰氏の『絶対に受けたくない無駄な医療』を参考していただきたい。米国では医療費削減のため無駄な医療を徹底的に検証して削減している

 国債を発行してまでやるべきなのは高速道路や橋脚の補修、耐震補強、河川の堤防の強化、防災上脆弱な土地(ハザードマップの浸水予想地域、土砂崩れ危険地域)からの住民の集団移転費用、南海トラフや相模トラフ等の地震対策、そして国防・安全保障(対中国共産党)にかかわる費用などだ。これらは借金をしたとしても次の世代の利益になるものだからだ。これらの投資は長期間にわたるもので国内景気を浮揚させる力もあるだろう。借金せずとも高齢者の保険の自己負担率引き上げを行い医療費を20兆円に半減させて前述した次の世代の利益になるインフラに投資すべきである。次の世代に何を渡すかを語らない、目先の有権者の利益しか考えない政治家しかいない国にはこうした正論は望めないのだろうか?

4)残る疑問
 宮川医師によると、スウェーデンでは小中学校・保育園は開校・開園を維持したが、高校大学はオンライン授業としたという。筆者はこの部分にはまだ疑問が残る。
 小中学生と高校大学生の二つの年齢層で重症化率、死亡率に差があるという報告は見たことがないからだ。小中学生は学校に行ってスポーツや文化活動を行ってストレスを発散させることができるが、高校大学生はダメという根拠はない
 一つの可能性として1、2歳から10歳ぐらいまでに接種させる種々のワクチンに含まれる免疫強化物質アジュバントが10代前半の子供たちの自然免疫を高めているという仮説はある。しかしこれは検証されている話ではない。アジュバントの効力が数年なのか10年なのかも分からない。

 高校大学生は小中学生より街中を出歩くし、学生間で広がった感染を社会全体に振りまく危険性があるということなのだろうか?しかし社会人がソーシャルディスタンスを取りながら普通に経済活動していいのなら、学生が店で飲食したり娯楽施設に行ったりしてはいけない理由もないように思える。
 筆者は、教育の質の確保の観点や不要な精神的ストレスを避けるためにも、高校大学生も小中学生と同様学校生活が許されるべきだと考える。学生が小売店や飲食店でアルバイトしてもいいとも考える。
 日本ではクラブ活動でも歌はダメ、体が接触するスポーツもダメ、大声を上げるのもダメ、とされているが、次節(次回ブログ記事)のように集団免疫獲得を目指すなら、どんどんやるべきかもしれない。
 ただし、長距離走や100mダッシュ10本、スクラム練習1時間など強い強度の運動をした直後は免疫力が急激に落ちるため感染した場合重症化リスクが高くなる。このスポーツ強度と免疫力低下に関しては学生だけでなく社会人、五輪を目指すアスリート、プロ選手にも共通な事項なので運動の専門家と免疫の専門家の共同作業で指針を作ってもらう必要があるだろう。

 高校大学生がクラブ活動などしてもPCR検査が間に合わないと日本の保健所は言うかもしれない。保健所はすべてに目を通するのをあきらめて、学校や団体が検査会社と直接検体をやり取りできるようにするしかないだろう。感染が判明したら自宅静養か成人の場合ホテル隔離が必要になる。(一人暮らしの大学生がクラブ活動で感染してしまうようなケースでも生活をケアできるよう隔離用宿泊施設も用意する必要があるだろう)東京や沖縄のように隔離用の宿泊施設を十分確保せずに経済活動すれば大変なことになるが、大半が無症状で陰性化するなら医療システムに負荷はかからない。十代、二十代の重症化率、死亡率は全年代を通じて最も低く、高校大学生だけオンライン授業にする必要はない。むしろ若いエネルギーは適切に発散させておかないと人格形成に大きな欠落を生んでしまうリスクがある。社会人が我慢するのとは本質的に異なる。

 スウェーデンでは会社業務もオンラインで行われたが、スウェーデンより日本の方が会社組織がオンラインで仕事ができない古い体質ではあると思う。それでもこれまで日本のオフィスでクラスターは発生していない。マスクをしてそこそこ換気していれば何とかなっている。
 ただし、70歳以上の高齢者と高血圧、糖尿病、ぜんそく以外の呼吸器系疾患、がんといった基礎疾患のある人は自主隔離するよう社会的に指針を示しておく必要はある。一般の人は飲み会に行こうがカラオケに行こうが自由だが、70歳以上の高齢者と基礎疾患のある人はやめておきなさいという事だ。仮にそういう人がカラオケや飲み会で感染して重症化しても医療費は自分持ちですよ、と指針を示しておけば自信のない人、金のない人はいかないだろう。

 宮川医師によると、スウェーデンでは核家族化しているので高齢者と同居する家族は少数だが、日本では都市部以外、特に地方では高齢者と同居する家族も一定数いるもしれない。そこだけ注意すればスウェーデン方式を実行することができるだろう。

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