スウェーデン報告の衝撃 2.集団免疫獲得の可能性

2.T細胞の交差免疫と集団免疫獲得の可能性
 5月22日発表のストックホルムでの調査結果によると市民の抗体保有率は7.3%と期待より非常に低く、集団免疫の獲得には非常に時間がかかりそうに見えた。(その時筆者は集団免疫獲得の60%のレベルに到達するのに2年もかかるじゃないかと概算したことを覚えている)その後SARS-Cov-2ウィルスに対してB細胞の産生する抗体は長続きせず発症後2か月で激減するという報告が複数出たこともあり、集団免疫の獲得という期待自体がなくなったと筆者は考えていたが、違ったようだ。
 スウェーデンから集団免疫に至る別ルートが示されたこれは衝撃以外の何物でもない


  スウェーデン公衆衛生局は7月17日の記者会見で、首都ストックホルムにおける住民の新型コロナ抗体獲得率が17.5%~20%に達し、さらに、「T細胞」を介した免疫とあわせると、40%近くが免疫を獲得していると推定されるとし、集団免疫はほぼ達成されたと発表した。 集団免疫の獲得には、一般に人口の60~70%の感染が必要と言われていたが、ストックホルム大学では、5月頃から「40~45%で十分ではないか」という予測が出されていた。 (「政策がナチュラルに無秩序な日本で、スウェーデンのコロナ対策を素直に見てみる」)
 筆者はT細胞による交差免疫という点をこれまで強く意識してこなかった。しかし調べてみると新型コロナウィルスSARS-Cov-2に対して有効な記憶を持つ(交差免疫を持つ)T細胞が多く見つかったという報告が米細胞科学誌Cellにあったという記事を見つけた。これは強調しておくべきだと考える。

 Cellの記事によると、米ラホヤ免疫研究所などのチームによると、入院を必要とせず回復した20人のリンパ球「T細胞」に同ウイルスの成分を加えたところ、強い反応を示したという。ウイルスを認識し、それに対抗する抗体作りを助ける「ヘルパーT細胞」の反応が全ての人に、感染した細胞を殺す「キラーT細胞」の反応が70%の人に見られた。全ての人の血液に、ウイルスの感染に必要なタンパク質に対する抗体も作られていた。
 さらに新型コロナの流行前に採取し保存していた血液を調べたところ、半数の人に新型コロナに反応するT細胞があることも明らかになった。チームは、普通の風邪の原因となるコロナウイルスへの感染でできた免疫が新型コロナに働く「交差免疫」の可能性を指摘する。
 次図はCellの記事を紹介したJIJI.comの記事の図の転載。
Jiji.com記事より転載.png

 上の報告が20人だけなので全体の傾向が分かったとはいいがたい。しかし、入院をしないで陰性化したという事は呼吸器系などで発症していないのであり、ウィルスが細胞に侵入し多量に増殖する前に体細胞ごと死滅させたと考えられるので、回復できたのは貪食細胞とT細胞によるのは間違えない。さらにSARS-Cov-2の流行前の血液にもSARS-Cov-2ウィルスに対して反応するT細胞が半数あったということから、回復者の体内では免疫を新たに獲得した以上に以前の記憶からSARS-Cov-2ウィルスに対して有効なT細胞を増殖させて対処した可能性があるのは間違いない。
注)ただし抗原非特異的な(外敵を片っ端から食べてしまう)マクロファージなどの自然免疫系よりT細胞の方の戦果が大きかったと断言できる証拠が挙がっているわけではない。もしラホヤ免疫研究所などのチームが被験者のT細胞白血球と自然免疫の好中球白血球を取り出して共にSARS-Cov-2ウィルスまたはその断片を加えた時、好中球白血球よりT細胞の白血球の方がはるかに強く反応したという結果が得られたなら、陰性化はT細胞の働きによったと考えてもいいことになる。

交差免疫に関する補足的な解説
 免疫関係の用語に不慣れな人に少し解説しておく。上の文章だけで理解できた人は読み飛ばしてもらって構わない。
 体内に新たな外敵(菌やウィルスまたは花粉症の原因となるたんぱく質など)が入り込むと、自然免疫の貪食細胞(マクロファージ、樹状細胞など)がそれを食べて、食べた断片をT細胞に「これが今見つけた外敵の一部です」と抗原提示する。抗原とは外敵の断片で、新型コロナウィルスSARS-Cov-2の場合、体細胞表面のACE2レセプターにとりつく4種類のスパイクたんぱく質などだ。また外敵に侵入された体細胞も「これが外敵です」と抗原を細胞表面に提示する。抗原提示されたキラーT細胞は自己増殖して自らを増やし、動き回って同じ抗原が提示されている体細胞を探し回わる。抗原提示している、外敵が侵入した体細胞を見つけると体細胞ごとサイトカインという炎上物質で破壊する(これを細胞免疫という)。
一方ヘルパーT細胞から抗原提示され「これに合う抗体を作ってね」と指示されたB細胞はやはり自らを増やし、4種類のスパイクたんぱく質にとりついて封じる抗体を産生してそれを血液中に大量に放出する。抗体は液性免疫と呼ばれ、血液中に浮遊する外敵に取りついて無効化する。抗体があれば細胞に侵入したウィルスが増殖して血液中に流れ出して外敵が体細胞に侵入する前に無効化できる。(これを液性免疫という)

 次図は樹状細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞の関連した活動のイメージ図(河本宏「もっとよくわかる!免疫学」羊土社より転載)。
獲得免疫系の働き2.jpg

 T細胞とB細胞はそれぞれ過去の抗原を記憶しているのだが、B細胞の産生する抗体は抗原特異性が高く、完全に同じもの(抗原タンパク質)にしか作用でないが、T細胞は若干ゆるく、《似たような抗原》に対しても攻撃する。(上の教科書の図ではキラーT細胞は抗原特異的となっているが実は似たような抗原にも反応する)このゆるさが本来外敵でないスギ花粉などのタンパク質でアレルギーを起こす原因である、と言えば理解しやすいだろう。このゆるさが過去にひいた風邪のコロナウィルスの記憶に基づいて新型コロナSARS-Cov-2ウィルスを攻撃している可能性がある、ということだ。この似たようなもの(抗原)に対して起こる免疫活動を交差免疫という。千葉丈・東京理科大学名誉教授は「広域交差反応性メモリーT細胞」という言葉を使っているが、筆者は自身ががアレルギーだからかもしれないが、そもそもT細胞の抗原特異性は割とゆるいものと認識している。
 風邪のウィルスは200種類ほどあるといわれるが、その中にコロナウィルスも数種類ある。アジアでCOVID-19が重症化せず、西ヨーロッパ、北米中南米で重症化するのは過去に<似たような>風邪のコロナウィルスがはやったかどうかの違いではないか、という仮説(前出の千葉氏による)も成り立つ

 T細胞が過去の記憶からうまく新型コロナSARS-Cov-2ウィルスに対して対処できているのに対して、発症から2か月後に抗体が激減するという知見が。抗原を記憶したB細胞がいずれ完全に消失するのか、それとも体内に再び抗原が入ってきたときに記憶したB細胞が再増殖して再び同じ抗体を大量に産生するのか、その辺は実は完全には分かっていない。ただインフルエンザウィルスに対してはワクチンの有効期間は3・4か月であり、次の年の流行期には同じウィルスを含めて数種類のウィルスに対する抗原をワクチン接種する必要がある。毎年流行するインフルエンザウィルスは種類が異なるからワクチンを変える必要はあるが、ひょっとすると抗体を作るB細胞には長期間の記憶保持は期待できないのかもしれない
 一方インフルエンザウィルス・ワクチンは毎年似たようなウィルスの抗原を多く含んでいるが、T細胞がそれを記憶して交差免疫として作用しているかどうかは定かでない。高齢者に関しては交差免疫の記憶自体が弱まっていると考えられるが、子供ではT細胞の交差免疫でインフルエンザウィルスに広く交差免疫が働いてもおかしくない。おそらくそういう観点でキラーT細胞の交差免疫について調査されたことはないかもしれない。

感染者発生数の減少傾向は集団免疫を意味するのか?
 ではスウェーデンで5月後半から以前の倍に感染拡大したのが7月に入って急に終息傾向に転じたことをどう説明できるのだろうか?
7月以降明らかに感染者発生数は大きく減少傾向にある。次図は感染者発生数、死者数、退院/陰性化数の筆者による推移図(値はそれぞれ5日間の移動平均、元データはWorldometerの日々のデータ)。青線が感染者発生数の推移を示す。
スウェーデンの感染拡大の推移.png

 少なくともPCR検査数の増減によるものでないことは手元のデータ(Worldometerの日々のデータ)で確かめられた。5月の上中下旬の1日平均検査数はそれぞれ2,900、6,000、2,900、6月の上中下旬の平均検査数は3,600、6,000、5,800、7月の上中下旬の平均検査数は15,300、8,000、12,700であり、7月は検査数を倍以上に増やしていながら感染者数発生数が減少している

 7月以降ロックダウンや休業要請など特別な感染対策をとっていないのに感染が減少しているということは高温期に入ってウィルスが弱毒化したことでは説明できない。6月以降日本や北米、東ヨーロッパで見られるウィルスの弱毒化は重症化しないこと、死亡率が下がることであって感染力そのものが下がることではないからだ。スウェーデン国内のウィルスに限って(ACE2に対してリガンドとして有効な4種類のスパイクたんぱく質が変形してしまうような)感染力が落ちるような変異をしたとすれば感染者発生数の減少は説明できるが、他のどの地域でもそういう統計は今のところ見られない。(そもそもロックダウンをしなかった国・地域が他にない。ウィルスがなくなるまで対策することに成功した例としては台湾、ニュージーランドなどがあげられる。しかしこれらの国は免疫が確立されたわけではなく、海外からウィルスが入ったとたんに感染拡大するだろう)

 ただ筆者が少し引っかかるのは免疫を獲得した人が多くいる時、それらの人を検査したら無症状だが感染している陽性反応者が必ず出るように考えられる点だ。PCR検査ではのどや鼻の粘膜または唾液にウィルスが見つかるかどうかを見るので、肺胞細胞あるいは鼻腔や嗅球の内皮細胞のACE2レセプターにウィルスが取りついているか、あるいは侵入しているかどうかではない。貪食細胞は粘膜中にからまったウィルスを攻撃するし、T細胞はウィルスが侵入した体細胞を攻撃する。しかしその過程ではウィルスはゼロではない。飲み込んだ/鼻から吸い込んだエアロゾルに百~千個のウィルスがいたとすればそれに免疫系が反応してゼロになるまでには一定の時間が必要だ。(ウィルスの大きさはナノメートルnmなので濃い数マイクロメートルμmの大きさのエアロゾルにはその程度のウィルスが含まれる可能性はある)
 PCR検査の精度は70%程度なので粘膜や唾液中のウィルス量が少なければ陰性と判定されるし、逆にただの土着コロナウィルスが多くいても陽性と判定される。無症状感染者まで見つからないほど感染者が減るという事は社会の空気中にほとんどウィルスが(ただのコロナウィルスを含めて)いなくなることを意味することでもある。陽性反応者が大きく減少するということは集団免疫獲得でなくてウィルスが(スウェーデン国内であるいは特定地域で、勝手に)消失しても起こりうることではある。ゆるい感染防止対策のスウェーデンでそれが起こるとは考え難いが。

 もしウィルスが変異して感染力が落ちたのでもなく、ウィルスが勝手に消滅したわけでもないなら、集団免疫を獲得したために感染者発生数が減少しているとしか説明のしようがない


集団免疫は成立するか?
 スウェーデンの公衆衛生局は抗体と交差免疫のT細胞を合わせると40%を超えるので集団免疫を獲得できたと考えたようだが、筆者はこれには否定的だ。柔道のように『合わせ技』で一本をとれるようなものだろうか?
 抗体は発症後2か月で激減するという報告が複数ある以上、長くは維持されないと考えるべきだ。発表があった7月17日の直前までスウェーデンは感染者数が拡大していたので直後の抗体保有率は非常に高かったと考えらえるが、十分な抗体が作られた後2か月ほどすれば抗体保有率はまた下がってしまうだろう。次の第二波が来て山を越えれば抗体保有率は上がるだろうが、問題は第二波が来てウィルスが体内に入ってきたときに抗体の産生が間に合うかどうかだ。第二波がすぐにくれば間に合うかもしれないし、2か月ほど間があけば記憶していたB細胞が消失して間に合わないかもしれない。西欧、北欧では風邪のコロナウィルスの交差免疫がない可能性が高いので、自然免疫とT細胞だけで新たに集団免疫ができるようになるには、さらに時間が必要になる可能性がある

 集団免疫を獲得できたかどうかはじきに分かる。というのはEU諸国の感染拡大が収まって国境を越えた人の移動が始まりつつあるからだ。
 抗体による免疫は抗原特異なためスウェーデンにない遺伝子型のウィルスに対しては(スパイクたんぱく質の違いによって)免疫が効かない場合が出てくるかもしれないが、T細胞による免疫はゆるいため、似たようなウィルスに対応して多少の遺伝子変異に関係なく対処してくれるだろう。そうであれば、新たな遺伝子型が国外から持ち込まれても撃破してくれると期待できる。
 感染した人はPCR検査で陽性と出れば自宅静養が必要だが、大半が症状が出ずに回復するのであれば、「集団免疫」が獲得されていたことになる。もちろん集団免疫の獲得いかんにかかわらず、70歳以上の高齢者や基礎疾患のある人は症状が出たり重症化したりするだろう。現時点ではスウェーデンのICUはがらがらなのでそういった人々も治療されるものと考えられる。

今後の調査課題
 抗原調査、抗体調査という手法はこれまでにもあるが、日本人がどれだけSARS-Cov-2ウィルスに有効な(交差記憶を持つ)T細胞を持っているかを疫学的に(少なくとも千人のオーダーで)調査する手法の開発が望まれる。おそらく無症状のまま陰性化した人の大半からは有効なT細胞が見つかるだろう。むしろ感染していない健康な人について調査する必要がある。もちろん、COVID-19流行前の血液でも全く構わない。
 そういう調査を行えば、日本では(アジアでは)新型コロナウィルスなんて「全然気にすることなかった」という結論を得て、コロナ対策できゅうきゅうとしていた世の中がガラッと変わってしまう可能性がある。そうでなくても年齢層や性別によって対策を完全に変えることができるかもしれない。子どもは(高齢者を避けながら)自由に学校に行き遊びまわれるようになれば、高校生・大学生がクラブ活動を自由にやれるようになれば、はるかにいい。あるいは30代までの若者だけが集まる50人以上の騒ぎを伴うライブもいいことになるかもしれない。
 しかし抗原や抗体は血液中に簡単に見つけられるものだが、T細胞は血液中のいくつかの白血球の中から選びださなければならない。選び出したT細胞白血球に対してSARS-Cov-2ウィルス(新型コロナウィルス)またはその4種類のスパイクたんぱく質を与えて反応を見なければならない。考えただけでも簡単ではないが、これは今までの疫学にない新しい研究調査であり、是非実現してほしい。ひたすら手間のかかる作業は研究員など使わずに多数のAIロボットに徹夜で作業させればいい。ロボットの作業は正確だし、疲れたとも眠たいとも給料が安いとも言わない。10台のロボットに手順を教え込んで2週間、1か月作業を続けさせる前提でやってみたらいいだろう。国家の最重要テーマであり、それによって新型コロナウィルス対策の根本が変わるのであるから、金は国が出せばいい。作業ロボットが1台1000万円かかったとしても後々の疫学研究に使えるなら国立感染症研究所でも一般の生理学系研究機関どこでも引く手あまただ。投資は国としても十分回収できる。
 ことのついでに子供や高齢者のインフルエンザウィルスに関するワクチンの交差免疫についても調べてみると、きっと面白い論文が書けるだろう。

日本は集団免疫を獲得するチャンスではないか?
 スウェーデンの事例から考えると、日本やアジア、オセアニア地域はもともとコロナウィルスに反応するT細胞を持っている可能性がある。
京大の中山教授のいうファクターXの重要な部分がT細胞の交差免疫かもしれない。であればスウェーデンより短期間で集団免疫が得られる可能性は十分ある。
 そしてこの高温期、新型コロナウィルスSARS-Cov-2は確実に弱毒化している。日本だけでなく、ヨーロッパでも北米でも重症化率、死亡率は3月4月より大きく低下している。(前回のブログ記事『弱毒化しているが甘く見てはいけない』参照)
 であるなら、感染するなら《今でしょう》
 70歳以上の高齢者、高血圧症、糖尿病、ぜんそく以外の呼吸器系疾患、がんといった基礎疾患のある人、妊婦、以外の人は外に出て感染しT細胞の交差免疫を働かせるべきではないだろうか?(喫煙者に関しては危険という説と安全という説が両方あるが、疫学的に喫煙者が重症化するという報告はいまだにないので筆者は気にしていない)
 7月8月9月の3か月の高温期で日本の大半の地域で弱毒化している間に多くの人が感染すれば、日本国内では集団免疫を獲得できる可能性が出てくる。ウィルスの変異に関しても、T細胞の交差免疫を考えれば、さして気にする必要はないかもしれない。この高温期なら海外から変異したウィルスを持った人が入ってきても問題ないだろう。弱毒化傾向がはっきり見られる北米やヨーロッパへの出張や旅行も可能だろう。オーストラリアや南アフリカなど南半球の低温期の地域については弱毒化の傾向を見定めてから出かけるべきだろう。
 しかし相手国の医療体制の事もあるので旅行は今年は国内に限定しておいた方が無難だろう。
 日本政府は緊急事態宣言(外出自粛、休業要請によるロックダウン)をできるだけ避けたい意向のようだ。
非難の声も上がっているが、経済を止めることによって路頭に迷う/死んでしまう人の数はウィルスで死んでしまう人より何千倍も多いのは確かなことだ。

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