ウィルスの弱毒化の検証

 筆者は2月3月の時点でウィルスは気温が上昇すれば感染力を失い、弱毒化すると予想していた。当時でもインドや東南アジアの高温地域では死亡率が低かったからだ。予想は半分当って、北半球の高緯度の国では6月後半以降感染力は落ちないもののウィルスが弱毒化しているとみられる。
 弱毒化が筆者の思い込みに過ぎないのか、そうでないのか、日本と世界各国の感染状況のデータから検証してみた。
 気温の上昇が弱毒化の原因であると断定できるほどの証拠は得られなかったが、気温が一因になっていることは確かのように感じる。


1.日本
 次図は日本の感染状況の筆者による推移図(元データはWorldometerの日々のデータ)。プロットは5日間の移動平均で増加減少の傾向を読みやすくしている。オレンジ線の死者数は右軸で左軸の10分の1にしている。
 第一波では感染発生のピーク(青線)から12日遅れで死者数(オレンジ線)も増えてピークがあったが、6月後半以降感染者は発生し続けているものの死者は増加していない。第一波では感染者の退院/陰性化(緑線)が遅く発生のピークから20日~30日後に退院者のピークが来ているが、第二波では感染発生のピークに1週間ほど遅れで退院/陰性化(緑線)している。つまり大半(グラフの波の高さからおよそ7割)は重症せずに1週間程度で陰性化しているように見える。
日本の感染状況.png
 暫定的な死亡率の評価「評価死亡率」
 「死亡率」は正しくはオレンジ線の山と青線の山の面積比である。厳密には青線(感染者発生数)の波が完全に終息したのちオレンジ線(死者数)の波が終わってから初めて計算できる。感染が終息していない段階では厳密な計算はできないので、だいだいの数字をとらえるしかない。青線に対してオレンジ線の山が平均2週間ずれていると単純に想定して第2波について「評価死亡率」を考えてこれを計算してみる。グラフから6月25日を境にそれ以降を第二波、それ以前を第一波と設定してみる。第一波の感染者数は6月24日までの感染者数18,024に対して7月8日までの死者数は980なので評価死亡率は5.4%となる。一方第二波は6月25日から7月27日の期間の感染者数13,877に対して(2週間ずらした)7月9日から8月12日までの死者数は79なので評価死亡率は0.56%となる。
 第二波の評価死亡率0.56%は第一波の評価死亡率5.4%のほぼ10分の1にまで低下している
 筆者は第二波は第一波の10分の1まで弱毒化したと主張するつもりはない。正しくは第二波の死者のカウント期間が短すぎるので第二波の死亡率を過小評価しているように見えると思う。しかし実際には2月のダイヤモンドプリンス号の感染した乗客もいまだに48名入院しているなど非常に長い闘病のケースがあり、7月になっても第一波の感染での死者が発生している状況である。正確には分からないが7月の死者、重症者の大半は第一波のものと筆者は考えている。重症化率、死亡率が大きく減少していることは間違いないだろう。

 第一波と第二波の評価死亡率の大きな違いは、日本の第一波と第二波で感染者の質(COVID-19進行度)が違う事によると考えられる。日本国内では第一波では37.5℃以上に発熱して4日以上経過しないとPCR検査を受けさせなかった。新型コロナウィルスSARS-Cov-2は侵入された体細胞が出す警告物質インターフェロンの放出量を1/10に抑制してしまう機能がある。インターフェロンの放出が抑えられると自然免疫系にフル出動命令がかからないため体温が上がらない。新型コロナウィルの場合、37.5℃が4日も続いたという事はウィルスが相当増えてしまっている重症化手前の状態という事になる。第一波でも濃厚接触者では無症状感染者もカウントしたが、結果的にCOVID-19が進行している感染者が多かった。第二波では有症状感染者より無症状感染者が圧倒的に多く、COVID-19の進行度が早い段階で検査しているため死亡率が劇的に下がっても不思議はない。
 重症化を防ぐためには発熱があったら翌日にはPCR検査を受けさせるべきである。発熱が4日続いてからのPCR検査ではそれだけで重症化してしまうリスクが高い(第一波ではそうだった)そのため日本国内の第一波は重症化率が高く死者を多く出した可能性が高い。6月後半以降はPCR検査数が増え発熱があれば4日経過しなくとも検査が受けられるようになったので、拾い上げられる感染者の質(COVID-19の進行度)が変わったとみるべきである。

 早い退院/陰性化
 退院/陰性化者数を表す緑の線の山は第一波では感染者発生から20日~1か月も後だった。それが第2波では7割程度は感染から1週間後には退院/陰性化している。無症状感染者は2週間自宅静養または宿泊隔離だが、第2波では1種間程度で陰性化しているようだ。20代30代が多いのも影響しているかもしれないが、無症状感染者が4割、発症者の5%が重症化と中国で言われた第一波とは様相が異なる


2.米国
 死亡率の低下が日本国内だけで見られるなら「弱毒化」ではなく単に検査が広く早くできるようになっただけといえる。しかし日本同様6月半ばの早い段階で経済再開した米国でも同じ傾向がみられるとすると、検査の問題や感染者の質の問題だけではなく、ウィルスの弱毒化を考えるべきである
 次図は日本の感染状況の筆者による推移図(元データはWorldometerの日々のデータ)。プロットは5日間の移動平均で増加減少の傾向を読みやすくしている。オレンジ線の死者数は右軸で左軸の10分の1にしている。
 6月10日頃までの第一波とそれ以降の第二波では死亡率が大きく異なるのが視覚的にもわかる。
米国の感染状況.png
 第一波が終息していないのに第二波という言いかたは妙に感じられるかもしれないが、米国では5月末までの波は主にニューヨーク、ニュージャージー、イリノイなどの北東部の州が寄与しており、それが5月後半から終息していく間に6月からカルフォルニア、フロリダ、テキサスなどの南部の州が急増して追い越したという事情がある。次図参照。
米国主要州の感染状況の推移.png
 第一波では気温の低い北東部での感染拡大で死者が大量に出て死亡率が上がった一方、第二波では高温化した南部の州で感染が拡大したが死者が増えず死亡率が下がった、という言い方をしてもいいかもしれない。各州で広がっているウィルスがまるきり違うタイプのものでない限り新型コロナウィルスの毒性が雰囲気温度で大きく異なることを意味するといえる。

 次に第一波で感染者数の主役だったニューヨーク、ニュージャージー、イリノイ各州の感染状況の推移を以下に示す。(筆者作成。データはすべて5日間の移動平均。元データはWorldometeの日々のデータ))青線のTotalCaseは感染者発生数、緑線のTotalRecvは退院/陰性化数、オレンジ線のDeathCaseは死者数の意味。いずれもWorldometerの表記に従ったもの。
NY州.png
NJ州.png
IL州.png
 ニューヨーク、ニュージャージー州では死亡率の変化は読み取れないが、イリノイ州では5月末から第二波があり第二波に対しては死亡率が下がっているのが視覚的にもわかる。

 次に第二波の主役になっているカルフォルニア、フロリダ、テキサスの各州の感染状況の推移図を示す。
CA州.png
FL州.png
TX州.png
 いずれの州でもオレンジ線と青線の関係から視覚的に死亡率が低下しているのが分かる。
死亡率の評価
 日本国内と同様に感染者発生に対して死亡が2週間遅れるという単純な想定で評価死亡率の変化を見てみたところ、6月10日までとその後の死亡率の変化は次のようになった。各州で変化の大きさに違いがあるのは気温の変化の大きさの違いなのかもしれない。(第二波の感染者数は後ろから2週間少なくする計算)
 カルフォルニア州 3.7%➡1.8%
 フロリダ州    4.9%➡1.4%
 テキサス州    2.8%➡2.0%

★気温と死亡率の関連性
 次の表は上の東京と3州の代表都市の今年の平均気温の推移を調べたもの。
4と市の温度推移の比較.png
 3月―7月の気温変化が最も大きいのは確かに東京で、弱毒化が一番大きく表れてもおかしくないが、前節で記したように日本の場合第一波では発熱継続4日間というPCR検査の縛りにより重症化した感染者が多かったのと第二波でその縛りがなくなったことの差が極端な評価死亡率の差になっているようだ。
 カルフォルニア、フロリダ、テキサスの3州の死亡率の変化の違いは温度上昇だけで説明できるものではなかった
 これは死亡率には医療レベル、医療キャパシティ、スラム街住民の多さ、肥満度などの基礎的な健康度の違い、マスク着用など感染対策の違いなど様々な要因が寄与するためと考えられる。
 なお東京都について6月24日までを第一波、6月25日までを第二波として同様の評価死亡率を計算してみると、東京都では第一波の死亡率は5.5%、第二波の死亡率は0.15%(感染者5319人に対して死者8人)となった。東京都が日本で最もICUの数が多く医療キャパが大きく、かつ医療技術も高いかもしれないが、第二波の全国平均死亡率0.56%よりさらに低かった。

 米国では6月半ばから経済活動を再開させたため感染第二波を迎えた州が多い。そのため死亡率が改善していることがグラフから視覚的にわかる州が多い。以下に上に示した州の次に感染者数の多いジョージア、ノースカロライナ、テネシー、ルイジアナ各州の、上と同様の推移図を示す。いずれも第二波(?)で感染者数が急増しているが死者数はほとんど変化しておらず、死亡率が下がっていることが分かる。
GE州.png
NC州.png
TE州.png
LA州.png
 6月20日までを第一波、それ以降を第二波として、死亡者の波は感染者の波に2週間遅れになるという単純な設定で第一波、第二波の評価死亡率を計算すると以下のようになった。(第二波の感染者数は後ろから2週間分少なくする計算)
 ジョージア州    4.5%➡1.4%
 ノースカロライナ州 2.0%➡1.3%
 テネシー州     2.6%➡1.3%
 ルイジアナ州    6.6%➡1.7%

 各州の第一波、第二波の評価死亡率を見てみると第一波ではばらばらだった死亡率が第二波では1.3~2.0%に収束しているようにも見える。これが何を意味しているのかは現在のところ不明だ。

 なお、グラフで気が付かれるように感染者発生数、死亡数に対して退院/陰性化数の波の出方は州によってまちまちだ。ニューヨーク州などは4月の感染第一波に対する退院/陰性化の山が7月に来ているが、集計の遅れなのか実態なのか、統計の取り方がおかしいとしか思えない。


3.気温が低下している南半球での死亡率
 弱毒化の原因が気温の上昇にあるなら冬を迎えた南半球ではウィルスは強毒化するのだろうか?筆者の予想ではいったん高温期に変形したスパイクタンパク質は気温が下がっても元に戻らないという予想だったが、今のところその予想/期待は外れているらしい。

 日本同様南半球で経済を再開した身近な国はオーストラリアとニュージーランドである。ニュージーランドは100日間感染者ゼロに抑え込んでいて、うらやましいことにラグビーの試合をして観戦を楽しんでいるという。ニュージーランドでは第二波がないので死亡率の比較はできないが、オーストラリアでは日本と同様第二波が起こっているので第一波、第二波の評価死亡率の比較ができる。
 次図はオーストラリアの筆者による感染状況推移図。(データはすべて5日間の移動平均。元データはWorldometerの日々のデータ)
オーストリアの感染状況.png
 6月20日までを第一波、それ以降を第二波として感染者発生から死者発生は2週間遅れるという単純な設定による評価死亡率は第一波で1.4%だが第二波では2.8%となった。夏場より冬場の方が毒性が強まるという結果だ。

  同じ南半球のアルゼンチンやチリではロックダウンとその解除による第一波、第二波という状況が感染状況推移図から読み取れないので、評価死亡率の比較ができない。次図は参考まで。
アルゼンチン.png
チリ.png

 南半球では南アフリカが最も感染拡大した国だが、アルゼンチン同様第一波と第二波の区分が付かず死亡率の変化を読み取れない。
南アフリカの感染状況.png


4、ヨーロッパ諸国
 北半球のヨーロッパ諸国ではロックダウン解除以降徐々に感染が拡大しつつあるが、まだ大きな第二波になっている国は多くない。
 ルクセンブルクは西ヨーロッパの中の一番の優等生で経済再開が早かったためか、第二波が6月25日ごろから始まっている。視覚的にも死亡率が下がっているように見えるが、6月25日以降を第二波と見た時の評価死亡率は第一波が2.5%、第二波が0.5%と数字的にも下がっている。
ルクセンブルグの感染状況.png

 フランス、スペイン、オランダ、ベルギーあたりでは7月10日ごろから第二波が始まっている。視覚的には第二波で死者が増えていないのは明らかだが、第二波が近すぎるため死者数をカウントする期間を十分とれず数字的にはまだ評価できない。
フランスの感染状況.png
スペインの感染状況.png
ベルギーの感染状況.png


 一方、東欧のチェコ、ルーマニア、ブルガリアは第一波の感染が終息しない6月前半には第二波が起きているように見える。
チェコの感染状況.png
ルーマニアの感染状況.png
ブルガリアの感染状況.png
 これらの国に関して第二波の起点日を6月12日、6月10日、6月2日として計算してみると第一波と第二波の評価死亡率は次のようになった。
 チェコ   4.5% ➡ 0.7%
 ルーマニア 7.5% ➡ 4.5%
 ブルガリア 7.1% ➡ 3.3%
いずれの国でも評価死亡率(=暫定的な死亡率)は有意に低下しており、弱毒化傾向が見えている。


5.結論
 日本だけでなく、気温が高くなった北半球の先進国では感染発生者数に対する死者数の推移を見ても、暫定的な死亡率「評価死亡率」を計算しても死亡率が春より夏の方が低下していることが分かった。筆者はこれをもってウィルスが弱毒化していると考える。
 ただし、評価死亡率自体は死者数の波の裾を切ってしまっていて厳密さを欠くものなのでその絶対値に意味はない。相対的な変化が分かる程度のものだ。厳密には第二波が完全に終息し最後の患者が退院した時が第二波の死亡率が計算できるタイミングになる。

 ヨーロッパでは3月4月介護施設でのクラスターで多くの高齢者が亡くなったし、米国やヨーロッパの先進国では貧しい外国人労働者が密に暮らすスラム街でもクラスターが多く発生して死者が増えた。それらに対して抜本的な改革がなされたのなら、介護施設やスラム街で死者が出なくなったのが死亡率低下の原因とみることもできなくはない。しかしそれらは構造的なもので簡単に改善できるものではないので、もっと別な要因を考えるのが自然だろう。少なくとも、第一波の優等生のルクセンブルクではこれらの要因は第一波にもともとなかったし、東欧諸国のチェコ、ルーマニア、ブルガリアといった国はそのような要因はほぼないといえるだろう。
 あと一か月ぐらい後にフランス、スペイン、ベルギーの第二波が落ち着いていれば、評価死亡率が10%台から2、3%に激減して見えるようになるかもしれない。

 新型コロナウィルスSARS-Cov-2が重症化しない特効薬や治療法が発見され広まったわけではない現状では、ウィルスが弱毒化していると考えるのが一番自然だろう。
 高温期に入ってコロナウィルスの4種類のスパイクたんぱく質(体細胞のACE2レセプターに対するリガンド)のいずれか複数に変形が起こり、リガンドとして機能しなくなることなどで、体細胞に侵入する能力が弱くなっている可能性、またはRNAを巻き付けているクロマチン様のタンパク質が熱変形したため体細胞に入った後体細胞のDNAを分解して自己複写する能力が弱くなっている(ウィルスは侵入した体細胞で1日に千倍に増えるがそれが例えば10倍にしか増えないなど)可能性などが考えられる。

 今後の課題
 弱毒化の説明には「重症化率」の変化の説明も必要になる。これが今後の課題だ。
いくつか解析中だが、何を見ているのか、何が言えるのかがまだよく分からない。

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