リフレ政策でデフレが脱却できないクルーグマンの言い訳

なぜアベノミクスで日本経済は良くならなかったのか?
リフレの提唱者クルーグマンの「Rethinking Japan」

異次元緩和は失敗だった。
クルーグマンの『Rethinking Japan』を読む
=吉田繁治
Money Voice 2015年11月15日記事(クルーグマンのNYTでのブログの解説)

米国経済学者クルーグマン(スウェーデン国立銀行賞受賞:日本ではノーベル経済学賞と称される)は1998年に書いた『流動性の罠』という論文で日本にリフレ政策を提言していた。これを浜田・内閣府参官房参与が安部首相に進言したのが、今のリフレ政策の原点という。
アベノミクスの3本の矢の1本目はリフレ金融政策で、円の供給を増やして金利を下げ国内の設備投資を活性化させるとともに、円安誘導して輸出を伸ばす、企業収益が増えれば所得が増えてデフレを脱却できる、というシナリオ…  だったのかもしれないが、ご承知の通り2年半経過して鳴かず飛ばずだ。

そのクルーグマンは最近の自身のNYタイムズ上のブログで取り上げ(Rethinking Japan)、なぜ日本でリフレ政策が失敗したかを考察しているという。

2013年4月、浜田某が推した黒川・岩田日銀総裁/副総裁が2年でマネタリー・ベース(通貨供給量・マネー・ベース)を2倍にし、消費者物価指数を2%上げると宣言した。
11月4日時点ではマネタリー・ベースは13年3月時点より2.4倍に増えている。日銀は国債・地方債の31%に当たる317.7兆円も買い取っている。しかし、消費者物価指数(CPI)(変動の激しい食品とエネルギーを除く)は6月0.6%、7月0.6%、8月0.8%、9月0.9%の上昇にとどまっている。

クルーグマンは1998年と2015年では状況が変化している、と言い訳の準備で書き出している。想定したもの以上に「日本経済の需要」が弱かった。(需要=GDP=世帯消費+住宅建設+企業の設備投資+在庫増+政府消費+公共投資+輸出-輸入)これが「本質に根ざすため、永続的な経済の条件」だといっている。
そして「労働人口1人当たりの生産高の増加を見ると、ほぼ2000年ころからは米国より高く、過去25年を見ても米国とほぼ変わらない。(日本は欧州よりはいい)」といっている。
1人当たりのGDPはどこよりも増加したが、人口そのものがどこよりも減少した、ということだ。
日本の人口は1998年の8726万人を頂点にして減少しつづけ2015年は7682万人となった。17年間で1044万人(12%)も減少した。これは年率で61万人(0.7%)という大きな減少だ

★筆者注: 内閣府のデータで見てみると、98年を100とした時GDP(Expenditure Approach)の総額は113.3に増えているだけだが、これを労働人口当たりで割って見てみると127.8まで増えている。
個の増え方は米国並みかそれ以上なのだろう。同様に国内総需要は総額では111.0に増えただけだが、一人あたりで見ると125.0に増えている。
内閣府のデータは以下のアドレス等
http://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2014/qe144_2/gdemenuja.html
となると、人口減少が問題でないなら、この事態は何か問題なのか?という疑問に変わる。

クルーグマン「現在、日本がひどい不況でないとすれば、なぜインフレ率の低さ(あるいはデフレ)が問題になるのか。」
内閣府の試算では、潜在成長力は1年0.6%(2014年)で潜在成長力に近いGDPは実現している。
クルーグマン「答えは、財政的なものだと推測する。日本の比較的に良好なGDPと雇用水準は、財政からの継続的な支援によるものだ。日本は、近年はずっと、結局は大きな財政赤字(※年間35~40兆円)を出し続けている。その財政赤字は、低い成長率の経済が、GDPに対する政府の債務比率を恒常的に上昇させていることを意味するからである。」
成長率そのものは潜在的に可能な率まで成長している。ただし、それが巨額な財政赤字によるというところが問題なのである。財政負担なしにそれだけ成長できれば何の問題もない。
つまり、日本は毎年の基礎的財政赤字のGDPに対する比率が6%と大きいため、低いGDP成長では「好況」であっても足りない(米国は▲2%、EUは+1%)。物価上昇を含む名目GDPの成長が6%以下の場合、GDPに対する債務比率は、どんどん膨らんでいく

★筆者注:この間のGDPの維持と雇用水準は35~40兆円という財政からの大きな支援によるもの、という点については検証が必要だ。そうだとすると大変なことだ

クルーグマン「今のところ、この財政赤字の大きさは何ら問題を引き起こしてはいない。日本は、均衡財政をとったときより、はるかにいい経済状態にあることははっきりしている。しかし、財政赤字の危機は大げさに言われ過ぎていると思っている我々ですら、債務比率が安定するか下がって、ある地点に落ち着くことを望みたい。」
今のGDPに対する政府債務比率240%がどんどん増え続けるのでなく、どこかでとどまるか、減少しないことには世界を安心させられない


この点は共感できる。今の財政赤字の水準を維持するか、少しでもそれが縮小する傾向があることを示すことが世界から期待されている。
それが膨らみ続けても問題ないという無責任な経済学者もいる。国民は大量の預金を持っているし、企業も内部留保がある、海外資産もある。だから問題ないという。
(経済学者という人種を私は全く信用していないし、無責任でない経済学者が誰なのかも全く知らないが)

しかし人口減少が続いて今の高齢者が年金を売った後、次の高齢者がそれらを100%購入できていく見込みはない
今の高齢者と同じように次の高齢者が資産を形成できていないからだ。
そうなると国債は海外投資家に買われるようになり、海外投資家の意向で価格が上昇したり、金利があがったりするようになってしまう。
10年後には現在と同じ額の国債でさえ、国内で保有し続けることは難しいだろう。
その購入資金は海外資産の切り売りだけでは間に合わなくなり、資産への課税、赤字企業への外形標準課税、あるいは企業の内部留保への課税と根こそぎ進んでいく可能性が高い。
それでも借金が800兆円が400兆円、300兆円へと減っていくならいい。
ただずるずると毎年35~40兆円の国債を発行し続けるようなことはもはや不可能だ。

クルーグマンはギリシャやPIGS諸国の財政に関して緊縮財政そのものに反対の立場で、それより財政によって経済成長するのが優先するという立場だ。その考え方は好感できる。
しかし、今回のRethink Japanを読む限り、クルーグマンも今の日本にはお手上げのようだ。
リフレ政策ではどうにもならない。

今のチョロチョロの規模の財政出動でも借金が増えていく圧力は相当なものだ。
そこに異次元緩和ならぬ異次元財政出動をしたらどうなってしまうのか?
90年代の大規模な公共工事への投資は全て借金を膨らませただけで、経済成長に寄与しなかった。
他に何があるというのか?
クルーグマンにも答えがない。

クルーグマンの話を要約するとこうだ。
日本には想定以上に「需要」がなかった。
日本は必死に生産性を上げることでえ人口減少によるマイナスをキャンセルするのが精いっぱいだった。
とても2%のインフレは望めない。
しかし今の財政状態をいい方向に向かわせるには4%以上の成長が必要だ。
しかし、何をすればいいのか分からない。



この大枠は間違っていない。
そして、この状況は今までの新自由主義でも新ケインズ主義でも解決できないところに来ているらしい。
日本に限らず、米国もEUも「成長できない」でもがいている。
成長を求めて3年に一度バブル崩壊する、奇妙な振動モードに入っている。


まだ既存の手段で経済が立ち直ると考えている気楽な人もいる。
以下のような記事だ。
ちぐはぐな日本のマイナス成長
長期停滞脱出には徹底した改革断行しかない

Wedge Infinity
2015年11月30日(Mon)  中島厚志 (経済産業研究所理事長
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5652?page=1


しかし、水野和夫の『資本主義の終焉と歴史の危機』を読むと、資本主義は本質的に世界的に行き詰っていて、終焉を迎えているのではないかと思えてくる。
次のブログではそれについて書く。



注)流動性の罠について
ゼロ金利になると、金融政策は無効になる。ゼロ金利のときは、現金需要が無限大に向かって発散し使われず退蔵されることを、ケインズは流動性の罠と名付けた。
これを避けるため経済をインフレにもって行き、実質金利をマイナスにするというのがリフレ派の考え方だ。
実質金利=名目金利-予想物価上昇率。

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