米国の中国に対する理解

Foreign Affairs May/June 2016 Issue
The Once and Future Superpower
Why China Won’t Overtake the United States ?

By Stephen G. Brooks and William C. Wohlforth
https://www.foreignaffairs.com/articles/united-states/2016-04-13/once-and-future-superpower?cid=nlc-twofa-20160428&sp_mid=51260525&sp_rid=dG9ydS1mQGFzYWhpLWF2dC5jb20S1&spMailingID=51260525&spUserID=MTA1MzI4Njg4ODk2S0&spJobID=903609739&spReportId=OTAzNjA5NzM5S0

概要
著者の二人はダートマス大学の国際関係学の専門家。
Foreign Affairsへの論文はイラク戦争などの「行動」の前に支配階層の支持を取り付けるのに用いられる重要なものがあるが、この論文は「中国恐れるに足りず」という主張の根拠を積み上げたもので、心配には及ばない、米国の覇権(surperpower)が数十年は続くよ、という楽観的なものだ。
Foreign Affairsは一般向けのものではないので、逆に米国内の親中派からの牽制球または懐柔策ともとれるように思う。米国政権の周辺には親中派のシンクタンクや研究者も多い。

1)技術の差
中国のアキレス腱は技術的専門知識(の蓄積)が低いこと。1990年までの科学技術系のノーベル賞受賞件数は米国114件に対して中国は2件。
2013年の革新的技術による国家収入は1280億ドルなのに対して、中国は10億ドル以下。3地域特許(米国、欧州、日本全域で取られた特許)の件数は米国12,000件に対して中国は2,000件。
 第一次大戦当時のイギリス、第二次大戦時のドイツ、冷戦時のソ連といった過去の挑戦者たちの方が、技術的なレベルで遥かに米国に迫っていた。 

2)実質的な経済規模の差
また経済規模の比較でもGDPが20世紀半ばごろ考え出された製造業中心の評価指標であり、実際にはそれ以上の差があるとしている。
工業資本、人的資本、自然資本を加味して作られた《包括的財産inclusive wealth》で比較すると国連の推計値では米国と中国は4.5倍の差がある。

金さえあればキャッチアップできるどころか、2012年では国防関連のR&D予算では米国は中国の13倍と推定されている、とも指摘している。

3)キャッチアップに必要な時間

60年代には航空機を開発するのに5年で済んだが、様々な技術をつぎ込むため90年代には10年かかるようになり、今では15~20年かかるようになっている。このため挑戦者が覇権国に追いつくにもなおさら時間がかかるようになってきているという。
(ただ、米軍関係者からはF-35など時間を金をかけすぎていて、金がかかりすぎ量を確保できないため実践に使えないという指摘が出ており、今後も同様の動向が続くとは言えない可能性もある*筆者注)

また、技術が高度になるほど兵器の技術は高度に複雑で様々に関連するものになってきており、サイバー犯罪で図面や資料を盗んだからといって知識・技術習得のショートカットにはならない、と断言している。
(中国がステルス戦闘機J-31を発表したが、おそらく十分な性能を発揮しないだろうと言われている)

3)現実の兵器のレベルの低さ
たとえば、中国は高度な戦闘機を量産する力はない。彼らのエンジンは未だにロシアの一世代前のものに過ぎない。また、静音性が重要となる原子力潜水艦は未だに米軍の50年代のものと同程度のものでしかない、という。

4)訓練に必要な時間
また、高度な技術の兵器を使いこなすためには高度な訓練のセットとインフラが必要であり、戦闘隊を動かすには信じられないほど複雑な努力が必要となっている。そのため訓練には非常に長い時間を要する、それには準なんな権限移譲も必要で、中国のような中央集権の社会にはそれがなく、事実上不可能ではないか、と指摘している。

5)結論
結果として巨大な経済力だけでは第二のsurperpowerを取ることはできない。ソビエト崩壊から25年を経ても、これらをすべて維持しているロシアこそが第二の軍事大国であることは不思議でもなんでもない、としている。
今後数十年は中国が米国を抜くどころか追いつける道理もない、というのが著者たちの結論だ。


★論文の記述は実際事実なのだが、ルトワックの言うように戦略家は保守的でなければならない
中国が人工衛星を破壊するロケットを開発していることは既に知られている以上、中国が米国のGPS衛星を破壊する能力があると想定して戦略を立てなければいけない。
ピルズベリーの『China2049』は中国の本心であると、すでに米国政権や民主党、共和党幹部は承知している。

昨年出たRand研究所の分析白書(*)は中国の軍事力について最大限のアラームを出している。
昨年Rand研究所の作戦指導者が中国側に立ち南シナ海で米軍と対峙する公式シミュレーションをしたとき、米軍は全滅してしまった。この時、中国は米国本土の通信インフラをサイバー攻撃し、米軍のGPS衛星を破壊し、最新の超高速魚雷を用いた。
そういう手段があるとすると、米軍といえども一方的に敗退するということを米国政権も民主党、共和党幹部も理解したはずである。それらの技術がまだ完成していないにせよ、いずれ完成した時の対抗策がなければ、第七艦隊といえども戦闘に勝てない。
そのことに留意しながら「現在」を理解しなければいけない。

*注)
Rand研究所作成「米中軍事スコアカード」
The U.S. - CHINA Military Scorecard
を読み解く
JBPress 2015.11.5(木) 渡部 悦和
米中がアジアで激突すればどちらが勝つか?
米国ランド研究所「米中軍事スコアカード」から見えた新事実

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/45158

2017年の時点で台湾紛争時、沖縄嘉手納基地はPLA(人民解放軍)の攻撃により初動の数日から数週間使用できなくなる可能性が高く、米軍には不利となった
  ⇒台湾で紛争が起こった場合、初動で台湾侵攻を防ぐには日本の空軍が必要とされている
   (分析から、沖縄の主力戦闘部隊をグアムまで退避させる米国の構想が支持された)
   または日本からの地対艦ミサイルが必要としている(日本にはそんな長距離ミサイルは今のところない)
☆中国は米国の人工衛星を攻撃する能力を飛躍的に高めており、宇宙での攻防は2017年にはイーブンとなるとしている


6月3日追記)
石 平 氏が面白い記事を書いていたので追記しておく。
伊勢志摩サミット首脳宣言に猛反発
孤立する中国が狙う反撃は「G20首脳会議」

Wegde Infinity 2016年06月01日(Wed)
 石 平 (中国問題・日中問題評論家)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/6926?page=1

キレまくる中国
中国外務省の華春瑩報道官
「今回、日本はG7の主催国である立場を利用して南シナ海問題を騒ぎ立て、緊張した雰囲気を作り出した。地域の安定に役立たないことだ」
「G7に参加する国々は、客観かつ公正な態度を保ち、領土問題で中立的な立場を守り、無責任な言論を発表することをやめてもらいたい」
人民日報
「問題をあおり立てて一体何が得られたか」
「見解の隔たりは大きく、成果は乏しかった。日本が私欲のために(南シナ海問題などの)議題を持ち込み、サミットの意義を損なった」
新華社通信
サミットは「時代遅れの金持ちクラブ」、「もはや先進7カ国(G7)には国際社会を動かす影響力はない」


こういったキレまくりの発言の背景にあるのは着々と進む「中国包囲網」だ。

「孔子だのなんだのの古い中国人が戦略でいまどき勝てるわけがない」と豪語しながら、まんまと何十年も騙され続けていた米国人ではあるものの、戦略家ルトワックの『強く出れば出るほど弱くなる』という戦略のジレンマ自体は正しかった。

3月9日、米国、豪州とダーウィン空軍基地に爆撃機B-1など戦略爆撃機を駐留させることを協議

3月14日、マレーシア国防相と豪州国防相と提携を模索と表明

3月31日、インドネシア政府、「海賊」対策として南シナ海南端のナトゥナ諸島に戦闘機F-16を配備する意向とブルームバーグが配信

4月2日、安倍晋三首相がワシントンでインドのモディ首相と行った会談で、両首脳は中国の南シナ海進出への「懸念」を共有

3月31日、ベトナム国境警備当局が中国船を拿捕

4月2日、米国の原子力空母ジョン・C・ステニスが南シナ海に展開し、中国に対する警戒監視活動を行っていると、日本政府高官が発表

4月8日、カーター米国防長官がステルス性能を持つ最新駆逐艦全3隻を、太平洋とインド洋を管轄する太平洋艦隊に配属する方針を表明

4月12日、日本海上自衛隊の護衛艦「ありあけ」と「せとぎり」が、南シナ海に面するベトナムの軍事要衝カムラン湾の国際港に初めて寄港

4月11日、広島G7外相会議で、「威嚇的・威圧的・挑発的な一方的行動」に対し、7カ国の総意として「強い反対」を明確に表明
イギリス、フランスなど親中と見られた国も反中に回った点が痛手

5月23日、米国大統領、ベトナム首相と対談し、武器禁輸措置を全面的に解除すると発表

5月25日、カーター米国防長官、「米国は、航行の自由、自由な交易、平和的な紛争解決など核心的な原則を守り、パートナーと共に立ち向かう覚悟」
「中国は拡張的で前例のない活動を南シナ海でしてきた。係争海域の人工島での施設建設、軍事拠点化は他国の埋め立てをすべて合わせたよりもはるかに(規模が)上回っている」と名指しで中国批判。
米海軍士官学校での演説で。

*『China2049』の恐ろしさを「支配階層」で共有した米国はもう騙されないとえいるか?
 大統領選が終わってみないと分からない

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック