スティグリッツの経済改革(2) 基盤理論

スティグリッツの『世界の99%を貧困にする経済』から

スティグリッツの批判は表面的なものでなく、現代の金融経済(金融が経済を乗っ取った状態)の根底にある通貨経済学の基盤であるフリードマン(シカゴ学派・自由市場原理主義)の理論そのものへの批判に端を発している。
フリードマンの学説・マネタリズム(通貨管理経済政策)では、政府は一定の割合(生産の増加率=労働力の増加率+生産性による増加率)でマネーサプライ(通貨供給量)を増やすだけでよいとした。 現実の経済を安定させる-完全雇用を実現するという目的で通貨政策を使うことはできないという点は、重要視されなかった。フリードマンは、政府が台無しにしない限り、経済がひとりでに完全雇用状態かそれに近い状態にとどまらせると考えていた。

 フリードマンから見ると大恐慌は市場の失敗ではなく政府の失敗だという。07年のリーマンショック以降、FBRバーナンキは大恐慌の教訓を生かしていないと非難されることを恐れてFRBのバランスシートを拡大した。2007年1月時点の8700億ドルから12年2月には2兆9300億ドルと3倍以上に膨らませ、米国経済に流動性を溢れかえらせた。(通貨政策の手段はのバランスシートの規模の調整だ-銀行システムにいくら貸し出し、国債をいくら購入するか)
 この過剰な流動性は財務省による膨大な救済措置と相まって銀行を救ったかもしれないが、不況は防げなかった。FBRは景気の押し下げを防いだり反転させたりするためにできることはほとんどなかった。

 フリードマンは銀行に対する規制は経済効率の妨げになると考え、規制は事実上撤廃されるべきと考えていた。この考え方はチリの独裁者ピノチェトによって試され、失敗した。自由な銀行が開業して融資額が増え一時的に経済活動が活性化したが、米国銀行業界が規制緩和後まもなく米国経済を破滅させたのと同様に、チリも1992年に過去最悪の不景気に沈み、政府が問題を修正する際に背負い込んだ負債を返済するのに四半世紀以上かかった。
 こういう失敗経験にもかかわらず、金融市場は独力でうまく機能するものだという考え方がグリーンスパン議長と歴代財務長官によって推し進められた。この見解は金融部門など最上層の人々の利益には大いにかなったが、経済船体をゆがめてしまった。
 1637年のチューリップ球根熱から2007年の米国・住宅バブルまで、経済的安定の維持において通貨当局が果たすべき責任の一つは、そういうバブルの形成を阻むことだったはずだ。

 マネタリズムの基礎には通貨の流通速度が一定であるという仮説があったが、20世紀末以降急速に変化する世界経済においては、それは事実ではなくなった。
中央銀行の理事たちはマネタリズムの大流行から数年でこれを捨て去ると、市場への干渉は最小限にするべきという教義と矛盾しない新しい理論を探し、『インフレ・ターゲット論』を見つけた。
 このスキームでは中央銀行は目標インフレ率を選定して(2%が好まれる)、その数字を上回らないように金利を調整する。(まさにクルーグマンが主導し、黒田日銀総裁がまねているものだ。)

*スティグリッツのこういう批判を見ると、一見経済学の主流が市場原理主義のフリードマンのマネタリズムから新ケインズ派のクルーグマンに転換したように見えるが、誰の利益のためなのかという実は根っこは同じだった、ということが理解できる。

スティグリッツはインフレ・ターゲット論に対しても容赦ない
 インフレ・ターゲット論は3つの怪しげな仮説に基づいている。第一は、インフレは究極の悪だという仮説。第二は、安定した低いインフレ率をは持つことが、安定した高い実質声量を維持するために必要かつ十分であるという仮説。第3はインフレ率が低いとすべての人が恩恵を被るという仮説だ。
1 920年代~30年代の大恐慌はインフレの恐ろしさを烙印したが、欧米ではここ3分の1世紀の間インフレは問題ではなかった。
中央銀行の使命はインフレ、雇用、成長の三つに目を配るバランスのとれたものだったはずだが、米国が9%の失業率に直面していた時でさえ、インフレ・タカ派の理事たちは利上げに賛成票を投じた。
 2008年世界経済が崩壊する直前、発展途上国が高いインフレ率に直面していたのは原油、食品などの輸入品価格が高騰していたためで、これをインフレ・ターゲット論に従って金利を上げたところでインフレを目標まで押し下げることは難しい。仮にエネルギーと食料の価格が20%上昇したら全体的なインフレ率を2%に収めるためには賃金と他の物価を急落させて市場経済を劇的に減速させ高い失業を生まざるを得なくなる。この治療法はまや病そのものよりたちが悪い。
 要するに、良好な雇用と高い成長を維持する最良の道筋がインフレに焦点を充てることだというのは、全くの誤りだ。むしろ適度なインフレによる損失は、財政崩壊による損失に比べれば取るに足りないものなのである。

 インフレ・ターゲット論者は、低インフレ率の恩恵を特に大きく受け取るのが債券所有者だという事実には目をつぶり、インフレは最も残酷な税金だと主張する。
 しかし、4年間失業している人に「あと1年失業するのと、インフレ率が1・2%上昇するのとどちらがいいか」問いかければ、答えは自明だ。低所得者にとって雇用の方がずっと重要なのだ。またインフレは退職者を苦しめるという主張も間違っている。社会保障給付金はインフレ調整されるからである。
 債券所有者は常に賭けに勝っている。中央銀行が警戒しすぎてインフレ率が予想より低くなったり、物価が下がり始めたりしても、受け取る利息が高くなり、債権が満期を迎えた時に手にする資金の価値も上がって、両面で勝ちを収められる。


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