台湾侵攻シナリオの再考(4)

ー南西諸島先制飽和攻撃のシナリオ-
前回ブログの短腕侵攻シナリオでは中国人民解放軍(以下PLAと略す)が台湾侵攻を始めると、米軍はS-400を飽和攻撃して防空システムを無力化したうえで、空軍空港設備や寧波軍港まで破壊してしまうので、PLAが弾道ミサイルで沖縄や横須賀などの基地に反撃に出たものの、
台湾侵攻の継続は不可能になってしまった。
ならば、PLAが台湾侵攻の前工作として沖縄など南西諸島の基地や空港を叩きに来た場合はどうなるか?というシナリオを検討した。

PLAが台湾侵攻の前に沖縄を攻撃するメリットは、上海の防空システムが健全な中で沖縄、宮古島、石垣島を攻撃できれば、南西諸島のレーダー、滑走路、補給処を完全に破壊することで、台湾進攻に対する南西諸島の相手空軍の拠点をなくし、台湾侵攻を有利に進めることができることである。
前のブログ記事『新型ミサイルを考慮した台湾侵攻シナリオ(3)』で見たように、現時点でも通常ミサイルによる沖縄の飽和攻撃は十分可能だ。
ここでも前回と同様、想定する時期は2020年の時点と想定する。

前提条件(自衛隊、米軍)
・「台湾侵攻シナリオ」と同じ
・ただし「西南諸島飽和攻撃」の情報は詳細な日時は不明でも台湾情報員から伝わっているものとする。

前提条件(PLA)
・弾道ミサイルの配置と射程からいえば、佐世保、岩国、横須賀、三沢基地などを攻撃することも可能だが、
 それでは台湾侵攻以前に日米との全面戦争になってしまう。
 台湾侵攻の前工作でそこまではやることはないと考え、このシナリオでは沖縄の嘉手納、普天間、
 那覇の3基地と宮古石垣の空港のみをPLAの飽和攻撃対象とした。

PLAの弾道ミサイル、巡航ミサイルによる飽和攻撃
1)上海から戦闘機を50機出撃させ、中国領空内から弾道ミサイルDF-16(射程1000km)を
  宮古島空港に25発、石垣島空港に25発撃ち込む(上海、水門のS-400防空域内)
2)東部艦隊の潜水艦8隻が寧波軍港沖合からDF-16を沖縄に50発撃ち込む(水中発射)
3)上海~福建省の複数個所からロケット軍が沖縄基地にDF-16を50発、沖縄周辺海域の
  イージス艦に50発のDF-21Dを撃ち込む(上海、水門のS-400の防空域内)
4)東部艦隊の駆逐艦10隻が寧波~水門沿岸150km沖のどこかから、YJ-18Gを沖縄に100発、
  宮古島に50発、石垣島に50発撃ち込む(上海and/or水門のS-400防空域内)
5)2)と別部隊の潜水艦8隻も同様の距離からYJ-18Gを沖縄に50発撃ち込む
6)4)の艦隊を空から護衛する戦闘機50機が、YJ-18を周辺海域のイージス艦に
  対して50発、YJ-18Gを沖縄に50発撃ち込む(上海and/or水門のS-400防空域内)

次の図はPLAのS-400防空ミサイルの射程、巡航ミサイルJY-18の射程、弾道ミサイルDF-16の射程を地図上に描いたもの。
DF-16は移動式発射台によるため、どこにあるか分からない(図中X印)。YJ-18はミサイル駆逐艦、潜水艦、戦闘機等から発射されるため、艦隊を組んで沿岸150km沖のどこかの地点(図中二つの十印の間ぐらい)から一斉発射すると予想される。
PLAが台湾進攻の前に沖縄を攻撃してくる場合の位置関係B.JPG

なお、PLAの艦隊が射程内海域に入る前に攻撃された場合、例えば午前1時に全部隊が攻撃開始と決めているが、4)~5)の艦隊が攻撃を受けた時点で1)~3)は攻撃を開始する手筈になっているものとする。

1)~6)の攻撃が弾道ミサイル200発、巡航ミサイル200発を次々と沖縄の3基地、宮古島石垣島の空港を目指して発射しようとする時、どこまで発射を阻止でき、また発射されたミサイルに対して、洋上のイージス艦数隻と地上のPAC-2、PAC-3、それにF-15J戦闘機の対弾道ミサイル用対空ミサイルAAM-4でどこまで防げるだろうか?

南西諸島飽和攻撃に対する日米の対応
1)戦闘機のDF-16による宮古島・石垣島攻撃への対応
  上海の北西200km付近(地図のX地点付近)の戦闘機を撃墜するには、S-400防空域の外から
  飽和攻撃を加えてS-400+S-300をタマギレにしてから戦闘機を攻撃する必要がある一方、
  PLAの戦闘機はそれぞれ1発ずつ発射すればいいだけなので、時間的に困難と考えられる。
  中国の領空であり、「これ以上侵入したら撃墜する」と警告できる場所でもない。
  上海のS-400+S-300を先に直接攻撃することは中国本土への先制攻撃になってしまうので、
  相手が攻撃する前に攻撃するのは難しい。まったく阻止できないと考えられる。
2)上海沖20海里以内の海域からの潜水艦によるDF-16発射への対応
  PLAの作戦海域なので有人潜水艦を侵入させるのはリスクが高い。
  UUV(無人潜水艇)を遠隔で操作できればいいがどの程度PLAの潜水艦を検出・攻撃できるか分からない。 
  ソナーブイを大量にまかれていて対潜哨戒機に検知されるかもしれない。
  PLA潜水艦からのDF-16の発射は2割阻止できればいい方だろう。
3)地上ロケット軍による沖縄基地と周辺日米艦船へのDF-16、DF-21D攻撃への対応
  そもそもどこに配備されているものか分からないので、発射台の位置を特定するのに時間がかかり、
  発射終了までの短時間に発射台を破壊することは困難だろう。
  ※湾岸戦争やコソボ紛争で米軍は移動式発射台のほどんどを破壊できなかった
4)5)ミサイル駆逐艦、潜水艦からのYJ-18G発射への対応
  PLAの艦船が沖縄や宮古島、石垣島をYJ-18Gの射程に捕らえるのは公海上なので、
  米軍の戦闘機は射程海域に侵入したら攻撃すると警告することができる。
  それでも侵入しようとしたら、警戒水域に待機した潜水艦ミサイル駆逐艦から魚雷やLRASMで
  攻撃することができる。
  公海上なのでソナーブイを予め撒いてPLAの潜水艦の動向を探ることもできる。
  PLAの艦隊は上海、水門のS-400+300に二重に守られているため、少なくとも60発程度は
  迎撃されてしまう前提で、大量にミサイルを撃ち込む必要がある。
  その後初めてPLAの駆逐艦を攻撃できることになる。
  PLAの駆逐艦自体もイージス的に防御するので、射程海域に入るまでに相当数のミサイルを
  撃ち込む必要がある。
  しかし、この攻撃の間に、米軍の攻撃側のミサイル駆逐艦もDF-21D弾道ミサイル(射程距離1500km)
  に狙われるかもしれない。大量のミサイルが飛び交う中で迎撃しそこなう事もありえる。
  そこで4隻の攻撃艦のうち1隻を失うと想定してみる。
  そのためPLAの駆逐艦が予定の4分の1は巡航ミサイルを発射できるかもしれない
  魚雷攻撃を逃れた潜水艦からは10発程度発射されてしまうかもしれない
6)戦闘機からのYJ-18G発射への対応
  PLAの艦隊を護衛するPLA戦闘機に対してはこちらも戦闘機で対応する。
  射程110kmの空対空ミサイルAIM-120Cを装備する米軍のF-16C/Dは、警告を無視して
  射程内空域に入ろうとするPLAの戦闘機を攻撃できる。
  PLAの戦闘機の空対空ミサイルの射程は最長70kmなので米軍のF-16C/Dの方が有利だ。
  しかし、PLAの戦闘機は50機と多数なのですべてを撃墜することはできず、
  巡航ミサイルの発射を8割抑えられれば上出来だろう。

 ※空自のF-15JのAAM-4空対空ミサイルは弾道ミサイル対応仕様なので、
  南西諸島上空で、PLAのミサイルを迎撃する役に回った方がいいかもしれない。
  BDM型イージス艦が後方なので、前方のF-15Jが取りこぼした目標をイージスが追撃
  するやり方になる。

日米の被害予想
      発射されるミサイルの数
      弾道ミサイル 巡航ミサイル
沖縄基地3     90      35
宮古島空港    50      6
石垣島空港    50      6
イージス艦12   70      10

BDMイージス艦の弾道ミサイル撃墜率は8割とし、巡航ミサイルの迎撃率も8割とする。
SM-2+PAC-3の迎撃率も8割と想定する。
      迎撃で失敗ミサイル数
      弾道ミサイル 巡航ミサイル
沖縄基地3    3.6     1.6
宮古島基地1  2.0     0.24
石垣島基地1  2.0     0.24
イージス艦12  14.0     2.0

PLAの空港やミサイル駆逐艦という目標に対する命中率は弾道ミサイルDF-16で3発に1発、
巡航ミサイルは1発必中とする。
  漢和防務評論(20180406)

ただし、イージス艦は自身の主砲で自分に対する攻撃を8割守れるとする。
      目標に的中するミサイルの数
      弾道ミサイル 巡航ミサイル
沖縄基地3    1.2     1.6
宮古島基地1  0.66     0.24
石垣島基地1  0.66     0.24
イージス艦12  0.92     0.4
沖縄の3つの基地に対して大きいダメージが2.8ということは嘉手納、普天間、那覇の3基地はそれぞれ大きな損傷を被るか、重大な損傷、大きい損傷、軽微な損傷と別れるかもしれない。
宮古島、石垣島の空港もそれぞれ大きいダメージが0.9なので使用不可能になり、攻撃型イージス艦もどれか1隻が撃沈する可能性がある、という結果となる。
さらに弾道ミサイルの命中精度の低さから、基地周辺の住民にも被害が発生するだろう。

米軍による報復攻撃
・米軍は沖縄の基地が破壊されたので、中国本土のPLA基地を破壊する当然の権利を得る。
・「南西諸島攻撃」の事前情報が入った時点で艦載機F-18/60機にJASSM-ER巡航ミサイル
 (射程1000km)を積んで空母は横須賀沖合のDF-26の射程外まで退いておくものとする。
・上の迎撃作戦で少なくとも上海、水門のS-400+S-300がタマギレになっているので、
 PLAの攻撃終了直後に上海周辺の5つの空港、水門飛行場など福建省の空港を飽和攻撃で破壊
 しておくべきだろう。その上で寧波と福建省の港設備と弾薬庫、艦船を破壊してしまえば、
 PLAは台湾侵攻を当分あきらめることになる。
・空母ロナルド・レーガンの艦載機F-18(航続距離3700km)は福建省沿岸500km
 程度の洋上まで飛行し、グアムのB-1爆撃機(JASSM10発搭載)5機と共に
 JASSM-ER(射程1000km)を用いて飽和攻撃によって龍田飛行場、厦門基地の
 S-400+S-300を無力化し、空港や軍港を攻撃して帰艦する。
・寧波軍港や上海の空港はPLAのイージス的対空防衛システムでもある程度は防御できる。
 特に寧波軍港はPLAのイージス艦が多く守っていると想定される。
 それらが互いに米軍の最新のCECのようにレーダー目標を共有して重複することなく
 漏らすことなく迎撃できるシステムなら、破壊するのが難しいかもしれない。
・どの程度ダメージを与えられたかは人工衛星や偵察機で確認する。
 ダメージが少ないようなら、再度空母艦載機F-18に巡航ミサイルを積んで
 上海周辺空港と寧波への攻撃の第二派を行う。

この勝敗は双方の対空防御システムのCEC性能が勝敗を分けるかもしれない。
・もしPLAのCECが高度なものであれば、上海周辺の空港や寧波軍港と艦船を守り切り、
 PLAは東部艦隊の戦力を落とさずに済み、台湾侵攻を継続できる。
 逆に米軍ほど優れたCECシステムがPLAになければ、台湾侵攻を完全に挫くことができる。
注)CECとは地上の移動式発射台や艦船や戦闘機などのレーダーの目標情報を共有して、
  重複することなく別々の目標にそれぞれのミサイルを誘導できるシステムのこと

「南西諸島先制飽和攻撃のシナリオ」の総括
・PLAのミサイル飽和攻撃は脅威である。特にどこから飛んでくるか分からない
 弾道ミサイルに対しては迎撃以外の手段がない。イージス艦12隻で守ったとしても、
 飽和攻撃によって沖縄を含む南西諸島の全ての空港は1日で破壊されうる
・S-400+S-300防空システムは脅威であり、ミサイル飽和攻撃時には十分な攻撃時間を稼ぐ
 ことができる
・米軍は射程1000kmのステルス巡航ミサイルがPLAの巡航ミサイルを上回り対抗できる
・今のところS-400をタマギレにさせればPLAは米軍のステルス巡航ミサイルに対抗できない
・ただし、S-400+S-300以外のPLAの対空システムの能力、CEC能力はよく分かっていない
・PLAの対艦弾道弾ミサイルの量は脅威で、今の対空防衛システムでは飽和攻撃を防ぎ入れない
 PLAの弾道ミサイルの命中精度が今より向上すれば、日米は恐ろしいダメージを受けるように
 なる可能性が高い

・こういう戦いによって嘉手納、普天間基地が大きく損傷すると、いよいよ米空軍が
 グアムまで引き上げることになる。そうなった時、空自に必要な人員戦闘機は倍になり、
 適地攻撃能力を米軍並みに引き上げないとPLAに対抗できなくなる。
・沖縄をはじめとする一般市民にも大きな被害が出るだろう。
 逆説的だが、こういった戦いが起こった方が、『専守防衛』では国を守れないことを理解させ、
 国民の目を覚ます機会になるだろう。

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この記事へのコメント

2020年04月06日 08:42
面白く読ませて頂きました
そこで思った事なのですが、

①南西諸島の基地を攻撃するなら、全面 戦争は確実のため日本本土の基地も同時に攻撃した方が効率的なのでは
②嘉手納基地なは真っ先に弾道ミサイルの標的となり、航空機は生き残れないので米軍機はグアムやオーストラリアまで後方退避する
③米軍の「インサイドアウト防衛戦略」などから見ても中国本土への大規模な攻撃はエスカレーションを恐れて行えないのでは?
④また、九州の基地もDF-16などの標的となり作戦行動は不能となる可能性が高い

以上の事もあり、序盤は中国軍により有利に進むのではないかと思うのですが…

宜しければご返信お待ちしております
2020年04月06日 09:00
追記

ミサイル防衛について

1個パトリオット大隊が同時に迎撃できるミサイル数は36発、イージス艦1隻が搭載するSM-3は8発と言われているそうです

また、対艦弾道ミサイルのリスクを考えると米空母は第二列島線付近まで一旦後退すると言われているそうです